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環境依存症候群
説明
行動が、そのときの環境が与える手がかりによって決められてしまい、本人の意図や場面の文脈から切り離される状態である。Lhermitte が模倣行動と使用行動を包括する上位の概念として提唱した [1]。個々の行動そのものは正常であり、拙劣でも無秩序でもない。異常なのは、その行動を「いま・ここで」行う必然性が本人の側になく、環境の側にあるという点である。
Lhermitte は依存の対象を二つに分けている。ひとつは社会的環境への依存で、他者の動作を自動的に模倣する、他者が期待していると思われる役割をその場で演じてしまう、といった形をとる。もうひとつは物理的環境への依存で、置かれた物品を使ってしまう使用行動がこれにあたる。この二つは分離しうることが示されており、統合失調症患者を対象とした検討では、それぞれの形式が独立に検出された [2]。この報告では、遂行機能に関わる依存と社会的認知に関わる依存とが背外側前頭前野と眼窩前頭皮質の異なる機能不全に対応する可能性が論じられている。
物品の使用や動作の模倣以外にも変種が報告されている。読字への依存として、手に取った本や新聞の表題を読み上げ、さらに視野に入るあらゆる文字情報(街路名、商品名)を読んでしまう症例が記述されている [3]。また強迫的発話を主徴とする変種(forced hyperphasia)も報告されており [4]、環境依存が特定の行為様式に限定されないことを示している。個々の徴候を別々の症候として数え上げるより、環境依存という共通の枠で捉えたほうが臨床像を見通しやすい場面がある。
病巣
- 前頭前野
- 前頭葉前方部の下半分(模倣行動・使用行動に対応する)
- 眼窩前頭皮質(社会的環境への依存に関与すると考えられている)
- 背外側前頭前野(物理的環境への依存・遂行機能的側面に関与すると考えられている)
- 二つの依存形式と前頭前野の下位領域との対応は仮説の段階であり、確立していない [2]
検査
物理的環境への依存の観察
- 指示を与えずに物品を提示し、自発的な使用の有無を見る
- 文字情報(本、新聞、掲示)への反応
社会的環境への依存の観察
- 検者の動作に対する自動的な模倣の有無
- 場面が暗黙に与える役割に沿って行動してしまうか
- 二つの形式が分離しているかどうかを記録する
行動後の問診
- 行動の理由の説明(合理化するか、意志に反したと訴えるか)
遂行機能・社会的認知の評価
- 反応抑制、概念の転換
- 社会的文脈の理解に関する課題
分類上の論点
環境依存症候群を独立した症候群として立てるかについては、扱いが分かれている。 模倣行動と使用行動を別個の症候として記載すれば足りるとする立場に対し、両者に共通する「行動の決定権が環境の側に移る」という性質を捉えるには上位概念が必要だとする立場がある。本項では後者に従って項目を立てているが、実際の診療記録では個々の徴候を具体的に記述することが優先される。
また、環境依存という枠に何を含めるかにも幅がある。読字への依存や強迫的発話まで含める記述がある一方、両側頭頂葉病変による把握・拒否現象との異同を論じたものもあり [5]、概念の外延は定まっていない。
文献
- Lhermitte F, Pillon B, Serdaru M. Human autonomy and the frontal lobes. Part I: Imitation and
utilization behavior: a neuropsychological study of 75 patients. Ann Neurol
1986;19(4):326-34.
(原著、75例。PMID 3707084 / DOI) - Besnard J, Pivette M, Lambrichts A, Lalaux N, Allain P. Environmental dependency phenomena in
schizophrenia: a pilot study. Cogn Neuropsychiatry 2018;23(2):59-73.
(パイロット研究、患者17例・健常対照28例。PMID 29377770 /
DOI) - Assal G. [An aspect of utilization behavior: dependence on written language].
Rev Neurol (Paris) 1985;141(6-7):493-5.
(症例報告、フランス語。PMID 4089411) - Tanaka Y, Albert ML, Hara H, Miyashita T, Kotani N. Forced hyperphasia and environmental
dependency syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;68(2):224-6.
(症例報告、1例。PMID 10644794 / DOI) - Barraquer Bordás L. [The "biparietal rejection syndrome" versus "environmental dependency
syndrome" and Kluver-Bucy syndrome]. Arch Neurobiol (Madr) 1990;53(1):57-9.
(総説、スペイン語。PMID 2203325)