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使用行動
説明
目の前に置かれた物品を、指示されていないにもかかわらず手に取り、その物品本来の用途どおりに使ってしまう行動である。使い方そのものは正しく、行為としては完全に適切であるにもかかわらず、その場面でそれを使う必要がまったくない点が異常である。診察机にコップと水差しを置くと水を注いで飲む、眼鏡をすでにかけているのにもう一つの眼鏡を手に取ってかける、といった形をとる [1, 2]。
行動の後に理由を尋ねると、患者は「そこに置いてあったから」「そうするものだと思った」と述べ、行動を合理化する。 自分の意志に反して手が動いたという体験ではない。この点は道具の強迫的使用との決定的な違いであり、両者を分ける最も実際的な問診項目になる。
Lhermitte らは、模倣行動40例・使用行動35例・対照50例の計75例を検討し、これらの行動が社会的環境と物理的環境への依存という二つの特徴を共有すること、そして知的統制の喪失を伴うことを示した [3]。この研究では前頭葉に限局した病変を持つ29例のうち96%に模倣行動または使用行動が認められ、CT では片側または両側の前頭葉前方部の下半分の障害が示された。Lhermitte はこの現象を「前頭葉による抑制の障害の結果として、頭頂葉の活動が解放されたもの」と解釈している。模倣行動は使用行動の前段階と位置づけられており、模倣行動の項も併せて参照されたい。
病巣
- 前頭葉前方部の下半分(眼窩面を含む)
- 片側性のことも両側性のこともある
- 内側前頭葉、補足運動野
- 前頭葉以外の病変による報告もある(下記「分類上の論点」を参照)
検査
行動観察(診断の中心)
- 指示を与えずに物品を患者の前に置き、自発的な使用の有無を見る
- 「使わないように」と指示した場合に抑制できるかを確認する
- 複数の物品を提示したときの反応
行動後の問診(鑑別に必須)
- なぜ使ったのかを尋ね、合理化するか、意志に反したと訴えるかを記録する
- どちらの手で行われたか(両側性か一側性か)
関連徴候の確認
- 模倣行動
- 把握反射、視覚性把握
- 環境依存症候群としての他の徴候
遂行機能・抑制の評価
- 反応抑制課題(Go/No-Go 課題など)
- 干渉抑制課題
- 概念の転換
分類上の論点
「使用行動は前頭葉症状である」という括りには異論がある [4]。
Eslinger らは傍正中視床梗塞による顕著な使用行動の症例を報告し、抑制・自己モニタリング・認知的柔軟性を要する環境との相互作用に視床-前頭葉の成分が関与することを示唆した [5]。また石原らは、左上前頭回の皮質下白質の梗塞によって使用行動を呈し、剖検で確認された症例を報告し、使用行動を白質離断症候群として捉えることを提唱している [6]。これらは、責任病巣を前頭葉皮質そのものに帰する見方への反例にあたる。
現象の内訳についても分解が試みられている。 Balani らは、内側前頭葉と側頭葉前部の両側性損傷後に使用行動を呈した1例で、手がかりによる注意の誘導と、それによって活性化された反応の抑制とが乖離しうることを示した [7]。この症例では、手がかり語と探索対象との意味的・視覚的連合によって注意が強く引き寄せられる一方(Stroop 語の色を答えられないにもかかわらず、その語の色に一致する色に注意が向く)、そこで喚起された反応を抑制する能力が障害されていた。使用行動を「抑制の障害」という単一の語で説明することの限界を示す所見である。
道具の強迫的使用との区別も必要である。 側性・病巣・患者の体験のいずれにおいても両者は異なる。詳細は道具の強迫的使用の項の対比表を参照されたい。
文献
- Archibald SJ, Mateer CA, Kerns KA. Utilization behavior: clinical manifestations and
neurological mechanisms. Neuropsychol Rev 2001;11(3):117-30.
(総説。PMID 11795839 / DOI) - Pandey S, Sarma N. Utilization behavior. Ann Indian Acad Neurol 2015;18(2):235-7.
(症例報告および総説。PMID 26019427 / DOI) - Lhermitte F, Pillon B, Serdaru M. Human autonomy and the frontal lobes. Part I: Imitation and
utilization behavior: a neuropsychological study of 75 patients. Ann Neurol
1986;19(4):326-34.
(原著、75例。PMID 3707084 / DOI) - Iaccarino L, Chieffi S, Iavarone A. Utilization behavior: what is known and what has to be
known? Behav Neurol 2014;2014:297128.
(総説。PMID 24825954 / DOI) - Eslinger PJ, Warner GC, Grattan LM, Easton JD. "Frontal lobe" utilization behavior associated
with paramedian thalamic infarction. Neurology 1991;41(3):450-2.
(症例報告。PMID 2006019 / DOI) - Ishihara K, Nishino H, Maki T, Kawamura M, Murayama S. Utilization behavior as a white matter
disconnection syndrome. Cortex 2002;38(3):379-87.
(症例報告、剖検例1例。PMID 12146662 /
DOI) - Balani AB, Soto D, Humphreys GW. Separating top-down and bottom-up cueing of attention from
response inhibition in utilization behavior. Neurocase 2011;18(2):98-111.
(単一症例研究。PMID 22011167 / DOI)