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最終更新: 2026-07-20

失語症 — 総論と分類

説明

失語症は、大脳の言語野の損傷により、いったん獲得された言語機能(話す・聞く・読む・書く)が
障害される症候群である。構音器官の麻痺による発話障害(構音障害)や、
言語以外の認知機能の全般的低下によるものは含まない。

主な症状は、自発話の障害、言語理解の障害、呼称障害、復唱障害、読解障害、書字障害である。

古典的分類

古典的分類は、流暢性・理解・復唱の3つの軸の組み合わせで型を決める。
Wernicke–Lichtheim–Geschwind の図式に由来し、今日でも臨床の共通語として広く使われている。

流暢性 理解 復唱
Broca失語(運動性失語) 非流暢 比較的良好 不良
Wernicke失語(感覚性失語) 流暢 不良 不良
伝導失語 流暢 良好 選択的に不良
超皮質性運動失語 非流暢 良好 良好
超皮質性感覚失語 流暢 不良 良好
超皮質性混合失語 非流暢 不良 良好
失名辞失語(健忘失語) 流暢 良好 良好
全失語 非流暢 不良 不良

復唱が保たれるかどうかが超皮質性失語群を分ける鍵で、
これは言語野を取り囲む分水嶺領域の病変によって、言語野が周囲から孤立するために生じると
説明されてきた。

病巣

  • Broca野(左下前頭回弁蓋部・三角部)
  • Wernicke野(左上側頭回後部)
  • 弓状束
  • 角回・縁上回
  • 分水嶺領域(超皮質性失語群)
  • 左被殻・尾状核・視床(皮質下性失語)

検査

  1. 標準失語症検査(SLTA)

  2. WAB失語症検査

  3. 掘り下げ検査

    • 語想起(意味カテゴリ/語頭音)
    • 呼称のモダリティ間比較
    • 漢字と仮名の乖離の評価

分類上の論点

古典的分類は臨床の共通語として有用であるが、病巣を予測する道具としては信頼できない。
この点は近年とくに強く指摘されている。

臨床解剖対応は3分の1しか成立しない

初発脳卒中による失語60例の検討で、伝統的分類による病巣と型の対応が明確だったのは
35%にとどまった [1]。著者らは、皮質・皮質下のいずれにおいても
「病巣部位と失語型のあいだに絶対的な対応は存在しない」と結論している。

同じ研究での型別の内訳は、全失語 33.3%、Broca失語 28.3%、超皮質性運動失語 13.3%、
超皮質性感覚失語 10%、Wernicke失語 8.3%、失名辞失語 5%、伝導失語 1.7% であった [1]。
頻度の分布は、古典的な教科書の記述の印象とはかなり異なる。

血管症候群として捉え直す提案

Bunker & Hillis は、古典的分類が持つ「ある程度の予測力」と「大きな変動性」の両方は、
失語型を特定の動脈の灌流域の障害による症候の集合とみなせば説明がつくとして、
血管症候群としての再構成を提案している [2]。

それでも古典的分類が使われ続ける理由

Wernicke–Lichtheim–Geschwind 理論は「広く認識された限界にもかかわらず、
現代の理論に影響を与え続けている」と評価されている [3]。
症候を簡潔に記述し、臨床家のあいだで伝達するための枠組みとしての価値は失われていない。

したがって、古典的分類は「記述の語彙」として使い、「病巣の推定」には画像を用いる、
という使い分けが実際的である。
このデータベースでも古典的分類の各型を立項しているが、
それは分類が妥当だからではなく、臨床で使われている語だからである。

分類不能例の扱い

古典分類にきれいに収まらない症例が一定数存在することは広く知られているが、
日本語の検査(SLTA・WAB日本語版)における分類不能例の割合の具体的な数値は、
今回の調査では確認できなかった(未確認)。

文献

  1. Bohra V, Khwaja GA, Jain S, Duggal A, Ghuge VV, Srivastava A. Clinicoanatomical
    correlation in stroke related aphasia. Ann Indian Acad Neurol 2015;18(4):424-9.
    (観察研究。脳卒中260例をスクリーニングし、初発脳卒中による失語60例を検討。
    言語評価は WAB のヒンディー語版。PMID 26713015 /
    DOI
  2. Bunker LD, Hillis AE. Vascular syndromes: Revisiting classification of poststroke aphasia.
    Handb Clin Neurol 2022;185:37-55.(総説。PMID 35078609 /
    DOI
  3. Weems SA, Reggia JA. Simulating single word processing in the classic aphasia syndromes
    based on the Wernicke-Lichtheim-Geschwind theory. Brain Lang 2006;98(3):291-309.
    (計算論的モデル研究。PMID 16828860 /
    DOI