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失構音(アナルトリー)
説明
口頭での発話産出ができない一方、言語理解と書字表出は保たれる症候。
英語圏では aphemia、フランス語圏の伝統では anarthrie(アナルトリー)と呼ばれる。
理解と書字が保たれるため、筆談によるやりとりは成立する。
この点で、言語そのものが障害される失語症とは区別される。
発症直後は完全な無言(mutism)を呈し、回復期に努力性・非流暢で構音の歪みを伴う
発話へと移行することが多く、この経過を追うことが診断上重要である。
古典的な責任病巣は左下前頭回弁蓋部と島の下部である。
一方、両側の弁蓋部が損なわれると Foix-Chavany-Marie 症候群となり、
口・顔面・舌・咽頭の随意運動が失われる一方、
情動性の運動(笑う、泣く)や反射は保たれるという自動—随意解離を示す。
失構音と Foix-Chavany-Marie 症候群は、
障害される皮質—脳幹核系の範囲の違いとして連続的に捉えられる。
Das らは、この連続性を示す症例を報告している [1]。
以前に左(優位側)島下部の脳卒中から明らかな後遺症なく回復していた患者が、
その後非優位側の島下部の脳卒中で失構音を呈した。
著者らは、一方の半球の既往病変によって代償が失われ、
対側の同種病変で初めて症状が顕在化する現象を
"Foix-Chavany-Marie phenomenon" と呼ぶことを提案している。
この報告は、非優位側の島下部病変単独でも失構音が生じうることを示しており、
病巣局在を左半球に限定する見方に修正を迫る。
病巣
- 左下前頭回弁蓋部
- 島の下部(sub-insular 領域)
- 両側弁蓋部・弁蓋下部(Foix-Chavany-Marie 症候群)
- 非優位側島下部(対側に既往病変がある場合)
検査
発話の観察
- 無言か、努力性・非流暢な発話か
- 構音の歪み、プロソディの異常
- 発症からの経過(無言から努力性発話への移行)
保たれている機能の確認(診断の中核)
- 聴覚的理解(口頭指示への従命)
- 書字による表出(自発書字・書き取り)
- 読解
口腔顔面運動の評価
- 随意的な口・舌・顔面運動
- 情動性運動(自発的な笑い・泣き)との解離の有無
- 嚥下・咽頭機能
標準失語症検査(SLTA)・WAB失語症検査
- 失語症との鑑別(書字と理解が保たれることの確認)
分類上の論点
失構音(aphemia)、発語失行(apraxia of speech)、
Foix-Chavany-Marie 症候群に伴うアナルトリー、
一側性上位運動ニューロン性構音障害の関係については、
用語の定義そのものに議論がある。
これらは単独でも組み合わせでも失構音の臨床像に寄与しうるとされ、
区別には経過を追った神経学的診察と詳細な発話評価が必要である [1]。
現時点で用語の統一された定義は確立していない。
文献
- Das S, Postman W, Haboubi MA, Akca O, Remmel K, Carter AR, et al.
A case of aphemia following non-dominant sub-insular stroke:
unveiling the Foix-Chavany-Marie phenomenon.
Neurocase 2021;27(3):281-286.(症例報告。PMID 34176440 /
DOI)