このデータベースは現在開発段階です。内容は随時更新・修正されます。
作話
説明
記憶の欠損を、事実とは異なる内容で埋めて語る現象である。患者に嘘をついている自覚はなく、語られた内容は本人にとって真の記憶として体験されている。記憶の想起の障害だけでは説明がつかず、想起された内容が現在の状況に適合しているかを検証する過程(現実検討)の破綻が関与すると考えられている。
自発性作話と誘発性作話を分けて記述することが臨床上重要である [1]。 誘発性作話(momentary confabulation)は質問されたときに生じる誤った回答で、健忘患者に広くみられ、記憶の欠損を埋める通常の推論の延長として理解できる。これに対し自発性作話(spontaneous confabulation)は、問われなくても患者が自発的に虚偽の内容を語り続けるもので、しばしば内容に沿って実際に行動してしまう(入院中であるのに「これから出勤する」と言って病棟を出ようとする、など)。両者は頻度も病巣も異なり、同じ「作話」という語で一括すると症候の重みが失われる。
自発性作話に関連する25の病巣を対象とした lesion network mapping では、病巣の解剖学的位置は多様であるにもかかわらず、100%が乳頭体と機能的結合を持つ単一のネットワークに収束することが示された [2]。この結合は、非特異的な症状に関連する病巣や妄想に関連する病巣と比較して特異的であり、さらに健忘に関連する病巣よりも眼窩前頭皮質との結合が強いことも示されている。作話が健忘の一亜型ではなく、部分的に重なりつつも異なるネットワークの症候であることを支持する所見である。
病巣
- 前頭葉眼窩面(とくに後内側眼窩前頭皮質)
- 内側前頭前野
- 前部帯状回
- 前脳基底部(前交通動脈瘤破裂後に多い)
- 視床(背内側核)、乳頭体
- 自発性作話の病巣は解剖学的には多様だが、乳頭体および眼窩前頭皮質との機能的結合という点で共通する
検査
作話の観察と分類
- 自発的に語られたか、質問に対して生じたかの区別
- 内容に沿った行動を伴うか
- 訂正への反応(指摘されて修正できるか、固執するか)
- 内容の範囲(エピソード記憶、個人的事実知識、見当識のどれに及ぶか)
記憶と見当識の評価
- 遅延再生・遅延再認
- 逆向性健忘の範囲
- 時間・場所の見当識
現実検討・ソースモニタリングの評価
- 連続再認課題(同一の刺激集合を繰り返し提示し、今回の系列で出たかどうかを判断させる)
- 想像した出来事と実際に経験した出来事の区別を求める課題
- 情報の出所(誰から聞いたか、いつ見たか)の判断
遂行機能の評価
- 抑制、概念の転換、自己モニタリング
分類上の論点
自発性作話を独立した症候群とみなすか、健忘に付随する現象とみなすかで立場が分かれる。
Schnider は、作話・失見当識・健忘からなる「行動性自発性作話(behaviorally spontaneous confabulation)」を独立した症候群として位置づけ、その中核を後内側眼窩前頭皮質による現実フィルタリング(orbitofrontal reality filtering)の破綻に求めている [3]。この立場では、患者は記憶痕跡そのものを失っているのではなく、過去には正しかったが現在は無関係になった記憶痕跡を抑制できず、それが現在の思考に侵入してくる、と説明される。連続再認課題における侵入反応がその実験的指標とされてきた。
これに対し Turner らは、前交通動脈瘤による自発性作話3例を検討し、異なる結論を示している [4]。連続再認課題では Schnider らの結果を再現できたものの、時間的ソースモニタリング課題では過去の記憶痕跡が現在に侵入することを示せなかった。 一方で現実モニタリング課題では、想像した出来事を実際にあったこととして誤認する傾向が認められ、これは作話を示す患者に特異的で、作話を示さない前交通動脈瘤患者には認められなかった。この結果は時間的混同では説明できないため、障害はより一般的なソースモニタリング/現実モニタリングの障害であり、時間や現在の関連性に限らず複数の文脈的次元にまたがる、と論じている。
両者は同じ連続再認課題の所見を共有しながら、それが何を測っているかの解釈で対立している。どちらが正しいかは決着していない。 臨床的には、連続再認課題の侵入反応だけで機序を断定せず、現実モニタリング課題を併せて実施し、患者がどの種類の判断で誤るのかを記録しておくことに意味がある。
文献
- Kopelman MD. Observations on the Clinical Features of the Wernicke-Korsakoff Syndrome.
J Clin Med 2023;12(19):6310.
(症例報告を含む総説。PMID 37834954 / DOI) - Bateman JR, Ferguson MA, Anderson CA, Arciniegas DB, Gilboa A, Berman BD, et al. Network
Localization of Spontaneous Confabulation. J Neuropsychiatry Clin Neurosci
2023;36(1):45-52.
(lesion network mapping 研究。自発性作話25病巣、対照は非特異的症状135病巣・妄想32病巣・健忘53病巣、正常コネクトーム N=1,000。PMID 37415502 /
DOI) - Schnider A, Nahum L, Ptak R. What does extinction have to do with confabulation? Cortex
2016;87:5-15.
(総説。PMID 27852471 / DOI) - Turner MS, Cipolotti L, Shallice T. Spontaneous confabulation, temporal context confusion and
reality monitoring: a study of three patients with anterior communicating artery aneurysms.
J Int Neuropsychol Soc 2010;16(6):984-94.
(症例研究、前交通動脈瘤3例。PMID 20961471 / DOI)