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最終更新: 2026-07-20

Korsakoff症候群

説明

チアミン(ビタミン B1)欠乏によって生じる持続性の健忘症候群である。前向性健忘が前景に立ち、逆向性健忘、失見当識、作話を伴うことがある [1]。一方で意識は清明で、注意・言語・視空間認知は比較的保たれ、表面的な会話は成立する。この見かけの保たれ方が診断を遅らせる原因になる。慢性アルコール使用が最も多い背景であるが、胃切除後、反復性嘔吐、悪性腫瘍、長期の非経口栄養など、アルコールを介さないチアミン欠乏でも生じる [2]。

Wernicke 脳症の慢性期移行形として位置づけられる。 急性期の Wernicke 脳症は意識障害・眼球運動障害・失調を特徴とするが、この三徴がそろう例はむしろ少なく、無症状に近い経過をたどって健忘だけが残る例がある。したがって「Wernicke 脳症の既往がはっきりしないこと」は Korsakoff 症候群を否定する根拠にならない。逆に、Wernicke 脳症としてチアミンを投与しても、投与開始が遅れた場合には健忘が固定して残る。急性期の治療反応性と慢性期の残存障害は別の問題として扱う必要がある。

責任病巣として一貫して挙げられるのは乳頭体と視床背内側核である。これに加えて視床前核、中脳水道周囲灰白質、小脳虫部などが侵される。乳頭体の萎縮は慢性期の画像で確認できることがあるが、画像所見の有無で診断が決まるわけではない。臨床像・神経学的所見・神経心理学的所見・画像を組み合わせた多面的な評価が必要とされている [3]。

病巣

  • 乳頭体
  • 視床背内側核(および視床前核)
  • 中脳水道周囲灰白質
  • 第三脳室・第四脳室周囲
  • 小脳虫部(失調に対応)
  • 前頭葉の機能低下を伴うことが多く、遂行機能障害や作話の背景として論じられる

検査

  1. 記憶の評価

    • 言語性・視覚性素材の遅延再生と遅延再認
    • 逆向性健忘の範囲と時間的勾配
    • 作話の有無(自発性か誘発性か)
  2. 選択性の確認

    • 注意・作業記憶
    • 言語・視空間認知
    • 手続き記憶
  3. 遂行機能の評価

    • 概念の転換、抑制、系列的な計画
  4. 神経学的診察

    • 眼球運動(眼振、外眼筋麻痺)
    • 体幹失調・歩行
    • 末梢神経障害
  5. 生化学・画像

    • 血中チアミン濃度(正常値でも欠乏を否定できない)
    • MRI:視床内側部・乳頭体・中脳水道周囲の信号変化、慢性期の乳頭体萎縮

分類上の論点

Wernicke 脳症と Korsakoff 症候群を連続した一つの病態(Wernicke-Korsakoff 症候群)とみなすか、別個の症候群として扱うかには揺れがある。 両者を連続と見る立場は病理所見の共通性を根拠とするが、急性期を経ずに健忘のみを呈する例や、逆に Wernicke 脳症から健忘を残さず回復する例があり、移行が必然ではないことも事実である [1]。

アルコール性の認知障害のどこまでを Korsakoff 症候群と呼ぶかも問題になる。 慢性アルコール使用者にはチアミン欠乏以外の機序(直接的な神経毒性、肝性脳症、外傷の反復)による認知障害が併存しうるため、健忘の重症度と他の認知機能の保たれ方の釣り合いを見ずに「アルコール性健忘」とまとめると、症候の選択性という診断の要件が失われる。

文献

  1. Kopelman MD. Observations on the Clinical Features of the Wernicke-Korsakoff Syndrome.
    J Clin Med 2023;12(19):6310.
    (症例報告を含む総説。PMID 37834954 / DOI
  2. Mateos-Díaz AM, Marcos M, Chamorro AJ. Wernicke-Korsakoff syndrome and other diseases
    associated with thyamine deficiency. Med Clin (Barc) 2022;158(9):431-436.
    (総説。PMID 35039171 / DOI
  3. Popa I, Rădulescu I, Drăgoi AM, Trifu S, Cristea MB. Korsakoff syndrome: An overlook
    (Review). Exp Ther Med 2021;22(4):1132.
    (総説。PMID 34466144 / DOI