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展望記憶障害
説明
「これからしようとしていること」を、適切な時点で思い出して実行することの障害である。服薬、約束、火を止めること、外出前の戸締まりといった行為はすべて展望記憶に依存する。過去の出来事を想起する回想記憶と異なり、展望記憶では想起すべき時点を誰も教えてくれない。 進行中の別の作業を続けながら、自分で適切なタイミングを検出して意図に立ち戻る必要があり、この点で記憶の課題であると同時に注意と遂行機能の課題でもある。
手がかりの種類によって、特定の出来事が起きたときに実行する事象ベース展望記憶(「Aさんに会ったら伝言する」)と、決まった時刻に実行する時間ベース展望記憶(「10分後に電話する」)に分けられる。時間ベースのほうが外的な手がかりに乏しく、自発的に時間を確認する行動を要するため、一般に障害されやすいとされる。外傷性脳損傷を対象としたメタ解析では、患者群の展望記憶成績は対照群より有意に低く(d = 1.10)、手がかりの種類・手がかりの顕在性・並行して行う作業の複雑さが成績差を調整することが示されている [1]。つまり課題条件によって障害の見え方が変わるため、評価条件を記録しないと成績の比較ができない。
回想記憶が正常でも展望記憶が障害されうる点が臨床上重要である。 遅延再生が正常範囲であるのに「約束を守れない」「薬を飲み忘れる」という訴えが続く場合、記憶検査の正常を根拠に訴えを退けるべきではない。逆に、展望記憶の失敗は記憶そのものではなく、意図の保持を妨げる注意の障害や、行動の開始困難(発動性低下)に由来することもあり、失敗の内訳を分けて観察する必要がある。
病巣
- 前頭前野(とくに前頭極、Brodmann 10野)
- 背外側前頭前野(意図の保持と、進行中の作業との切り替え)[2]
- 内側前頭前野(自発的な意図への立ち戻り)
- 内側側頭葉(意図の内容そのものの保持)
- 前頭葉と内側側頭葉のいずれの損傷でも成績が低下するため、どの成分が障害されているかは病巣だけからは決まらない
検査
展望記憶課題
- 事象ベース課題(指定した刺激が現れたら決められた反応をする)
- 時間ベース課題(一定時間経過後に決められた反応をする)
- 両者の成績差を記録する
- 進行中の作業の負荷を変えたときの成績変化
成分の切り分け
- 意図の内容を後から尋ねて想起できるか(内容の保持の評価)
- 内容は言えるが実行できなかったのか、内容自体を失っていたのかを区別する
関連機能の評価
- 回想記憶(遅延再生・遅延再認)
- 注意の分配・切り替え
- 発動性
日常場面の評価
- RBMT(リバーミード行動記憶検査)に含まれる展望記憶的な課題
- 服薬管理・予定管理の実行状況の聴取
分類上の論点
展望記憶を記憶の下位に置くか遂行機能の下位に置くかは定まっていない。 意図の内容を保持する側面は記憶であり、適切な時点を自ら検出して進行中の作業から切り替える側面は遂行機能である。両者は課題のなかで不可分に働くため、成績の低下がどちらに由来するかを課題成績だけから決めることはできない。本項では記憶の分類のもとに置いているが、遂行機能障害の項と併せて読むことを前提としている。
文献
- Wong Gonzalez D, Buchanan L. A meta-analysis of task-related influences in prospective memory
in traumatic brain injury. Neuropsychol Rehabil 2017;29(5):657-671.
(メタ解析。PMID 28421863 / DOI) - Blumenfeld RS, Ranganath C. The lateral prefrontal cortex and human long-term memory.
Handb Clin Neurol 2019;163:221-235.
(総説。PMID 31590732 / DOI)