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最終更新: 2026-07-20

意味記憶障害

説明

言葉や事物が持つ意味そのもの、すなわち「それが何であるか」についての一般的知識が失われる状態である。エピソード記憶が「いつ・どこで」という文脈とともに個別の出来事を保持するのに対し、意味記憶は文脈から切り離された知識を保持する。障害されると、患者は物品の名前が言えないだけでなく、名前を聞いても何のことか分からず、実物を見ても用途が分からなくなる。同一の対象について、呼称・語理解・絵と語のマッチング・用途の説明のすべてが同程度に障害されることが、語想起だけが困難な失名詞との鑑別点になる。

障害は素材の入力経路によらず生じる。言葉で問うても、絵を見せても、実物を触らせても、同じ対象について同じように答えられないという「多モダリティ性」が特徴である。また使用頻度の高い語ほど保たれ、低頻度語から失われる頻度効果と、上位概念(動物、道具)が保たれて下位概念(キリン、ペンチ)から失われる、という規則的な崩れ方を示す。この規則性のため、患者はしばしば具体的な名称の代わりに上位概念語や「あれ」といった代名詞を用いるようになる。

責任病巣として一貫して挙げられるのが側頭極を含む側頭葉前方部である。ここが多様な感覚入力を統合する「ハブ」として働き、様式に依存しない概念表象を支えているという考え方が有力である [1]。臨床的には、この部位の萎縮を特徴とする語義失語(semantic dementia、意味性認知症)が意味記憶障害の代表的な現れ方であり、両者は地続きの現象として扱われる [2]。語義失語としての臨床像と診断基準については、言語カテゴリの語義失語の項を参照されたい。

病巣

  • 側頭葉前方部・側頭極(両側性の萎縮を伴うことが多い)
  • 側頭葉下面(下側頭回、紡錘状回前方)
  • 左側頭極の病変では語彙・意味の障害が前景に立つ
  • 右側頭極の病変では非言語的な対象認知や人物同定、行動・情動面の変化が前景に立つとする報告があるが、左右差の解釈には議論がある [3]
  • 単純ヘルペス脳炎、側頭葉前方部の外科的切除、頭部外傷でも生じる

検査

  1. 意味処理の多モダリティ評価(同一対象について複数の様式で問う)

    • 呼称
    • 語理解(語を聞いて絵を選ぶ)
    • 絵と絵のマッチング(意味的に関連する対象を選ばせる)
    • 用途の説明、対象に関する属性の質問
  2. 語彙・概念の階層性の評価

    • 高頻度語と低頻度語の成績差
    • 上位概念と下位概念の成績差
    • 語想起(意味カテゴリー流暢性と語頭音流暢性の比較)
  3. 他の記憶との対比

    • エピソード記憶(遅延再生・遅延再認)
    • 意味記憶が選択的に障害され、日常の出来事の記憶が保たれているかを確認する
  4. 標準化検査

    • SLTA(標準失語症検査)の呼称・理解に関する下位検査
    • 語彙・意味に関する補助検査

分類上の論点

意味記憶障害を記憶の項目として立てるか、言語の項目として立てるかは、扱いが分かれるところである。 本項では記憶の分類のもとに置いているが、臨床の場では語義失語として言語症状の側から把握されることが多く、実質的に同じ現象を二つの角度から記述していることになる。どちらの入口から来ても同じ症例に到達できるよう、相互に参照する形をとっている。

側頭極を単一の「意味ハブ」とみなす見方にも異論がある。 左右の側頭極の役割の違いについて、言語的表象と非言語的表象の分業とみる説明と、一般的な概念知識と社会的認知の分業とみる説明が並立しており、決着していない [3]。

文献

  1. Lambon Ralph MA. Neurocognitive insights on conceptual knowledge and its breakdown.
    Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 2013;369(1634):20120392.
    (総説。PMID 24324236 / DOI
  2. Yamadori A. Gogi (Word Meaning) Aphasia and Its Relation with Semantic Dementia.
    Front Neurol Neurosci 2019;44:30-38.
    (総説。PMID 31220829 / DOI
  3. Gainotti G. Is the difference between right and left ATLs due to the distinction between
    general and social cognition or between verbal and non-verbal representations?
    Neurosci Biobehav Rev 2015;51:296-312.
    (総説。PMID 25697904 / DOI