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最終更新: 2026-07-20

一過性全健忘

説明

突然発症し、24時間以内に消退する健忘発作である。発作中の患者は自分の状況を把握できず、「私はどうしてここにいるのか」といった同じ質問を短い間隔で繰り返す。一方で、意識は清明で、人物の同定は保たれ、複雑な行動(運転、調理、業務)は遂行できる。この「反復質問と、他の行動の見かけの正常さ」の組み合わせが臨床像の中核である。中高年に多く、大半は再発しない [1]。

急性期の認知障害はエピソード記憶に限局しない。 これは臨床上とくに注意を要する点である。系統的レビューによれば、急性期には時間・場所の失見当識、意味記憶の検索困難、ワーキングメモリの障害が併存する。回復は一定の順序をたどり、反復質問の消失 → 見当識の回復 → ワーキングメモリと意味記憶の回復 → エピソード記憶の回復の順に進む。したがって「質問を繰り返さなくなった」ことは回復の完了を意味しない。さらに、発症24時間後の時点でも微細な再認障害が残りうることが報告されており [2]、「24時間以内に完全回復する」という古典的な記述は、日常的な観察の水準での話として理解すべきである。

MRI 拡散強調画像(DWI)の感度は撮像時期に強く依存する。 メタ解析では、発症からの時間別の陽性率は0〜12時間で15.6%、48〜60時間では82.8%と報告されている [3]。海馬 CA1 領域の点状高信号が典型であるが、急性期に撮像した MRI が陰性であることは一過性全健忘を否定する根拠にならない。逆に、急性期に画像を撮る主目的は本症の確定ではなく、脳梗塞をはじめとする他の病態の除外にある。

病巣

  • 海馬 CA1 領域の点状病変が DWI で捉えられることが多い
  • 片側性のことも両側性のこともある
  • 病変が同定されない例も少なくない [4]
  • 発症機序については、静脈還流障害、拡延性抑制、片頭痛関連機序などが提唱されているが、確立していない

検査

  1. 発作中の観察(診断上最も重要)

    • 反復質問の有無と間隔
    • 人物の同定が保たれていることの確認
    • 意識・注意・言語が保たれていることの確認
    • 巣症状(麻痺、失語、視野障害)がないことの確認
  2. 記憶と関連機能の評価(急性期と回復期の両方で)

    • エピソード記憶(遅延再生・遅延再認)
    • 見当識
    • ワーキングメモリ
    • 意味記憶の検索(語想起、意味カテゴリー判断)
  3. 画像

    • MRI 拡散強調画像。急性期陰性でも否定できないため、可能なら発症24〜72時間の再検を検討する
    • 他疾患(脳梗塞、脳出血、静脈洞血栓症)の除外
  4. 脳波

    • 一過性てんかん性健忘との鑑別のため。睡眠賦活を含めた記録が望ましい

分類上の論点

一過性てんかん性健忘との鑑別が実務上の主要な問題である。 一過性てんかん性健忘は発作が短く(多くは1時間未満)、反復し、覚醒直後に起こりやすく、抗てんかん薬に反応するという特徴で区別される。一過性全健忘は通常1〜数時間持続して再発しないため、両者の区別は主として持続時間と反復性に依拠する。

ただしこの区別は絶対ではない。反復する一過性全健忘(recurrent TGA)が存在し、その臨床像は一過性てんかん性健忘に接近する。両者を比較した報告では、発作の持続時間と発作頻度が鑑別の手がかりとして挙げられているが [5]、個々の症例で明確に分けられるとは限らない。反復例では脳波の再検と、抗てんかん薬への反応を見る診断的治療が検討される [6]。一過性てんかん性健忘の項も併せて参照されたい。

文献

  1. Ropper AH. Transient Global Amnesia. N Engl J Med 2023;388(7):635-640.
    (総説。PMID 36791163 / DOI
  2. Liampas I, Kyriakoulopoulou P, Akrioti A, Stamati P, Germeni A, Batzikosta P, et al.
    Cognitive deficits and course of recovery in transient global amnesia: a systematic review.
    J Neurol 2024;271(10):6401-6425.
    (系統的レビュー。PMID 39090229 / DOI
  3. Wong ML, E Silva LOJ, Gerberi DJ, Edlow JA, Dubosh NM. Sensitivity of diffusion-weighted
    magnetic resonance imaging in transient global amnesia as a function of time from symptom
    onset. Acad Emerg Med 2021;29(4):398-405.
    (メタ解析。PMID 34516708 / DOI
  4. Piffer S, Nannoni S, Maulucci F, Beaud V, Rouaud O, Förster A, et al. Transient global
    amnesia with unexpected clinical and radiological findings: A case series and systematic
    review. J Neurol Sci 2022;441:120349.
    (症例集積および系統的レビュー。PMID 35944401 / DOI
  5. Sugiyama M, Tsunemi T, Hattori N. Clinical differences between transient epileptic amnesia
    (TEA) and recurrent transient global amnesia (r-TGA). Epilepsy Behav Rep 2024;27:100690.
    (PMID 39416713 / DOI
  6. Mettananda C, Mettananda S, Gunarathne K, Caldera M. Transient epileptic amnesia: temporal
    progression of partially treated disease-a case report. J Med Case Rep 2025;19(1):505.
    (症例報告。PMID 41088379 / DOI