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身体部位失認
説明
指示された身体部位を自分の身体の上で正しく指し示せなくなる症候である。言語理解も、対象の
意味理解も、運動の遂行も保たれているのに、「膝はどこですか」と問われて肘を指すといった誤りが
生じる。身体部位どうしの位置関係(どちらが上か、隣り合っているか)の認知も障害される。
障害されるのは身体部位の空間的な定位であって、身体部位の概念や語彙ではない。
Creutzfeldt-Jakob病による純粋型の症例では、自己の身体部位を命名する能力は保たれ、検者の
身体部位を指し示す能力も保たれていた一方で、自己の身体部位を指し示すことと、自己の身体部位間の
位置関係を認知することが障害された [1]。この乖離は、自己中心座標系のなかで三次元的な身体表象の
空間的位置を扱う機構が選択的に損なわれたことを示唆する。同症例では、腕のリーチ運動の
プログラミングの障害では説明できないことも確認されている [1]。
身体失認(asomatognosia)とは別の症候である。身体失認は一側(多くは左)の四肢に対する
身体所有感の障害であり、患肢が存在しない、あるいは他人のものだと感じられるという「産出性」の
現象である [2]。身体部位失認にはこうした一側性も所有感の障害もなく、両側の身体部位に等しく及ぶ。
病巣
- 左上頭頂小葉 — 純粋型の症例で責任病巣として報告されている [1]
- 左頭頂葉(角回・縁上回を含む)
検査
自己の身体部位の定位
- 口頭指示に対して自分の身体部位を指し示す
- 部位どうしの位置関係を口頭で問う(どちらが上か、隣接しているか)
対照課題
- 自己の身体部位の命名 — 語彙・概念が保たれることの確認
- 検者の身体部位の定位 — 他者身体では保たれるかの確認
- 人体図・人形の上での部位の定位
除外すべき障害の評価
- 言語理解(口頭命令の理解、失語の有無)
- リーチ運動のプログラミング、視覚性運動失調
- 左右識別、手指失認(Gerstmann症候群の構成要素との重なりの確認)
身体所有感の評価
- 身体失認(asomatognosia)との鑑別 — 視覚的同定課題やリーチ課題を用いる方法が提案されている
[2]
- 身体失認(asomatognosia)との鑑別 — 視覚的同定課題やリーチ課題を用いる方法が提案されている
分類上の論点
身体部位失認を独立した症候とみなすか、より一般的な空間認知障害や意味記憶障害の一側面とみなすか
は決着していない。純粋型の報告がきわめて少なく、多くの症例では失語・失行・視空間障害を伴う
ため、身体表象に特異的な障害であることの証明が難しいという事情がある [1]。
身体失認との関係についても整理が進んでいる途上である。身体失認は従来、半側personal neglectの
一表現とみなされることがあったが、Spinazzola らは右半球損傷患者を対象とした視覚的同定課題と
リーチ課題を用いた検討から、身体失認は personal neglect の多彩な現れのひとつとして片づけられる
ものではなく、自己の手を他人の手と取り違えるという「産出性」の障害として扱うべきだと論じ、
下・中前頭回の関与を報告している [2]。身体部位失認と身体失認を同一の枠組みで扱うことは
支持されていない。
文献
- Tamura I, Hamada S, Soma H, Moriwaka F, Tashiro K. A case of pure autotopagnosia following
Creutzfeldt-Jakob disease. Cogn Neuropsychol 2016;33(7-8):398-404.(症例報告。
PMID 27910737 / DOI) - Spinazzola L, Pagliari C, Facchin A, Maravita A. A new clinical evaluation of asomatognosia in
right brain damaged patients using visual and reaching tasks. J Clin Exp Neuropsychol
2020;42(5):436-449.(原著。PMID 32380939 /
DOI)