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最終更新: 2026-07-20

Balint症候群

説明

背側視覚経路の両側性障害によって生じる症候群である。次の3徴によって診断される。

  • 同時失認 — 個々の対象は認識できるのに、複数の対象を同時に把握できない
  • 視覚性運動失調 — 見た対象へ伸ばした手が正しい位置からずれる
  • 精神性注視麻痺(眼球運動失行) — 意図した対象へ随意的に視線を移せない

各徴候は独立した項目として立てているので、そちらも参照されたい。

Bálint が1909年に両側頭頂葉病変の症例を報告したのが最初であるが、
「Bálint症候群」という名称自体は1954年に Hécaen と Ajuriaguerra が命名したものであり、
Bálint 自身が症候群として提唱したわけではない [1]。
報告された症候の性質については論争があったが、現在は上記3徴の存在に基づいて
診断することが広く合意されている [1]。

病因は脳血管障害のほか、後部皮質萎縮症をはじめとする変性疾患など多様である。

病巣

  • 両側頭頂後頭葉(背側視覚経路)
  • 上頭頂小葉(視覚性運動失調)
  • 頭頂後頭接合部

検査

3徴はそれぞれ別に評価する。症候群名だけで記録すると、
どの徴候がどの程度あるのかが残らない。

  1. 同時失認の評価

    • 重複図形
    • 場面画の説明
    • 多数の対象からの探索
  2. 視覚性運動失調の評価

    • 中心視野と周辺視野それぞれへのポインティング
    • 使用する手と対象の視野を分けた評価
  3. 精神性注視麻痺の評価

    • 指示に応じた注視移動
    • 追視との比較

分類上の論点

症候群としてまとめるか、構成要素ごとに記述するかは、実務上の判断を要する。

古典像は「両側病変による3徴の完全形」であるが、一側病変でも不全型が生じる
左頭頂後頭葉優位の病変で、精神性注視麻痺・視覚性運動失調・同時失認が
右半空間で強い非対称性をもって出現した症例が報告されており [2]、
両側病変は必要条件ではない。
日本の臨床でも「バリント症候群の視覚性注意障害の不全型」といった記述が実際に用いられている。

中核が注意なのかどうかにも議論がある。
Pisella らは、Balint症候群の中核欠損は注意性であると主張している [3]。
covert attention(潜在的注意)は周辺視の空間解像度を高めるため、
その障害は空間的不確実性を増大させ、それが視対象の同定(同時失認・無視)と
視覚運動の精度(視覚性運動失調)の両方を損なう、という統合モデルである。
このモデルでは Balint症候群と半側空間無視は、同一の注意機構の障害の
両側性/一側性の表現として連続的に捉えられる [3]。

一方、視覚性運動失調と視覚失認の「二重乖離」が知覚/行為の2経路説の主要な根拠と
されてきたことに対しては、現存するデータは二重乖離を支持するに足りないという
批判もある [4]。

このデータベースでは3徴を独立項目として立て、症候群からリンクする形にしている。
一側病変の不全型を記録できるようにするためである。

文献

  1. Chechlacz M. Bilateral parietal dysfunctions and disconnections in simultanagnosia and
    Bálint syndrome. Handb Clin Neurol 2018;151:249-267.(史的総説。PMID 29519461 /
    DOI
  2. Sakurai Y, Fujimoto M, Hamada K, Sugimoto I. Asymmetric oculomotor apraxia, optic ataxia, and
    simultanagnosia with right hemispatial neglect from a predominantly left-sided lesion of the
    parieto-occipital area. Cogn Neuropsychiatry 2018;23(1):1-14.
    (症例報告、63歳女性1例。PMID 29199507 /
    DOI
  3. Pisella L, Vialatte A, Khan AZ, Rossetti Y. Bálint syndrome. Handb Clin Neurol
    2021;178:233-255.(総説。PMID 33832679 /
    DOI
  4. Pisella L, Binkofski F, Lasek K, Toni I, Rossetti Y. No double-dissociation between optic
    ataxia and visual agnosia: multiple sub-streams for multiple visuo-manual integrations.
    Neuropsychologia 2006;44(13):2734-48.(総説。PMID 16753188 /
    DOI