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最終更新: 2026-07-20

皮質聾

説明

末梢の聴器と聴神経が保たれているにもかかわらず、大脳の病変によって音そのものが聞こえなくなる
症候である。患者は音の存在に反応せず、行動上は難聴と区別がつかない。しかし純音聴力検査で高度の
閾値上昇を示す一方、聴性脳幹反応は保たれるという解離を示すことがあり、これが末梢性難聴との
鑑別の手がかりになる [1]。

聴覚失認の階層の最上位に位置する障害である。皮質聾から回復する過程で、音は聞こえるが意味が
分からないという段階、すなわち広義の聴覚失認へ移行し、さらにそこから純粋語聾・環境音失認・
失音楽といった選択的な下位型へ分岐していくことがある [2]。

皮質聾 → 広義の聴覚失認 → { 純粋語聾 / 環境音失認 / 失音楽 }

皮質聾に自身の聴覚障害への無自覚を伴うことがあり、Anton は1899年にこれを皮質盲における無自覚と
並べて記述した [3]。Anton症候群の項を参照されたい。

病巣

  • 両側の一次聴覚野(ヘシュル回)
  • 両側の聴放線 — 側頭葉皮質下白質の両側性病変 [2]
  • 両側性であることがほぼ必須で、多くは血管性病変による [1]

検査

  1. 純音聴力検査

    • 聴覚閾値の測定
    • 語音聴力検査
  2. 電気生理学的検査

    • 聴性脳幹反応 — 末梢および脳幹聴覚路の保たれを確認する
    • 聴性中間潜時反応・皮質誘発電位
  3. 障害の自覚の評価

    • 聴こえないことを本人がどう説明するか
    • 皮質盲における無自覚(Anton症候群の項を参照)との併存の有無
  4. 経過に応じた聴覚認知の再評価

    • 言語音・環境音・音楽の同定 — 広義の聴覚失認への移行の有無を追う

分類上の論点

皮質聾と重度の広義の聴覚失認をどこで線引きするかは明確でない。純音閾値の上昇の程度は
経過中に変動しうるため、同一の患者が時期によって皮質聾とも聴覚失認とも記述されることがある。

Miceli と Caccia は、120年以上の文献のなかで確実な病巣記載を伴う症例が累計80例に満たないことを
指摘し、既存の報告では聴力検査・神経言語学的評価・神経解剖学的記述のいずれかが不十分な例が多い
と述べている [1]。皮質聾と聴覚失認を鑑別する統一された閾値基準は確立していない。

文献

  1. Miceli G, Caccia A. Cortical disorders of speech processing: Pure word deafness and auditory
    agnosia. Handb Clin Neurol 2022;187:69-87.(総説。PMID 35964993 /
    DOI
  2. Tokida H, Kanaya Y, Shimoe Y, Imagawa M, Fukunaga S, Kuriyama M. [Auditory agnosia associated
    with bilateral putaminal hemorrhage: A case report of clinical course of recovery].
    Rinsho Shinkeigaku 2017;57(8):441-445.(症例報告。PMID 28740065 /
    DOI
  3. Gainotti G. History of Anosognosia. Front Neurol Neurosci 2019;44:75-82.(総説。
    PMID 31220837 / DOI