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最終更新: 2026-07-20

環境音失認

説明

聴力は保たれているのに、言語音以外の音が何の音か分からなくなる症候である。電話の呼び出し音、
犬の鳴き声、水の流れる音、救急車のサイレンといった、日常生活に埋め込まれた音の同定ができなく
なる。音が鳴っていること自体は分かり、大小や高低の弁別もできることが多いが、その音の
意味に結びつかない。

聴覚失認の階層のなかでは、皮質聾 → 広義の聴覚失認 → 純粋語聾/環境音失認/失音楽という
位置づけになる [1, 2]。環境音失認は、この広義の聴覚失認のうち非言語音の同定が選択的に損なわれた
下位型である。

環境音の認知と音楽の認知は二重乖離する。Vignolo は1883年以降の詳細な報告45例の review と、
一側性脳卒中患者40例への標準的な音楽・環境音認知検査の施行を行い、症例報告では音楽が選択的に
障害される例が多い一方、非選択的に集めた患者群では逆に環境音のほうが障害されやすいことを示し
た [3]。右半球病変では環境音の統覚が障害されて音楽が完全に保たれるか、環境音と旋律の双方が
障害されてリズムが保たれる傾向があり、左半球病変では旋律が保たれてリズムが障害される傾向が
あったと報告されている [3]。

病巣

  • 両側上側頭回・側頭葉聴覚連合野 — 広義の聴覚失認では両側病変が非常に多い [1]
  • 右半球側頭葉(環境音の統覚的処理への関与が示唆されている)[3]
  • 聴放線(両側被殻出血により両側の聴放線が損なわれた症例の報告がある)[4]

検査

  1. 純音聴力検査

    • 聴覚閾値の測定 — 末梢性難聴の除外が前提になる
    • 聴性脳幹反応
  2. 環境音の認知

    • 環境音の同定(音を聞かせて何の音かを答えさせる)
    • 環境音と音源絵カードとのマッチング — 呼称の困難と認知の困難を切り分ける
  3. 言語音・音楽との対比

    • 語音聴取、聴覚的理解、復唱
    • 旋律・リズムの弁別
  4. 意味記憶の評価

    • 視覚提示された対象の呼称・意味理解 — モダリティ特異性の確認

分類上の論点

環境音失認を独立した症候として扱えるかについては、慎重な議論がある。Vignolo が指摘した
とおり、症例報告として公表される例と、非選択的に集めた患者群で見つかる例とでは、乖離のパターン
が逆転する [3]。症例報告には選択バイアスがかかっている可能性が高く、報告例の分布から自然な
頻度を推定することはできない。

Miceli と Caccia の総説によれば、120年を超える文献のなかで確実な病巣記載を伴う広義の聴覚失認・
純粋語聾の症例は累計80例に満たず、しかも音の三領域(言語音・環境音・音楽)を網羅的に評価した
報告はさらに限られる [1]。したがって、環境音失認が真に選択的でありうるのか、それとも言語音や音楽
の障害を伴わない例は評価が不十分なだけなのかは、現時点で決着していない

回復の経過も乖離しうることが報告されている。両側被殻出血により全般性の聴覚失認を呈した日本語
話者の症例では、言語音の認知がまず改善し、次いで音楽、環境音の順に遅れて回復した [4]。ただし
これは単一症例の観察であり、一般化できるかは分かっていない。

文献

  1. Miceli G, Caccia A. Cortical disorders of speech processing: Pure word deafness and auditory
    agnosia. Handb Clin Neurol 2022;187:69-87.(総説。PMID 35964993 /
    DOI
  2. Sihvonen AJ, Särkämö T. Music processing and amusia. Handb Clin Neurol 2022;187:55-67.
    (総説。PMID 35964992 / DOI
  3. Vignolo LA. Music agnosia and auditory agnosia. Dissociations in stroke patients.
    Ann N Y Acad Sci 2003;999:50-7.(総説・症例研究。PMID 14681117 /
    DOI
  4. Tokida H, Kanaya Y, Shimoe Y, Imagawa M, Fukunaga S, Kuriyama M. [Auditory agnosia associated
    with bilateral putaminal hemorrhage: A case report of clinical course of recovery].
    Rinsho Shinkeigaku 2017;57(8):441-445.(症例報告。PMID 28740065 /
    DOI