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最終更新: 2026-07-20

手指失認

説明

自分や他者の手指を、個々の指として区別・同定できなくなる症候である。指が何本あるかは分かり、指そのものを見ることも動かすこともできるのに、「今触れたのはどの指か」「示指はどれか」といった個々の指の特定ができない。麻痺や感覚障害では説明できず、指という限られた身体部位に関する体部位の同定が選択的に障害されている点が特徴である。

Gerstmann症候群の4徴(失書・失算・左右失認・手指失認)の一つで、左下頭頂小葉・角回の病変で生じるとされる [1, 2]。Gerstmann 自身は4徴のうち手指失認を中核とみなし、これが他の3徴を下支えしているのではないかと考えていた。原著3症例の記述を再検討した近年の論文でも、手指失認は3例すべてに広く認められた症候として際立っており、Gerstmann がこれを中核と考えた理由は理解できるとされている [3]。ただし同じ論文は、4徴に共通する機能的な分母は原著の記述からは現れてこないとも述べている [3]。

臨床上は、指示語の理解(左右・部位の言語ラベル)の問題と、身体部位の同定そのものの問題とを切り分けることが必要になる。言語による指示と、視覚的な指し示し、触覚刺激に対する反応を並行して確かめることで、失語や左右失認の影響を除いた評価に近づく。

病巣

  • 左下頭頂小葉
  • 左角回
  • 左縁上回

検査

  1. 手指の同定

    • 検者が触れた指の同定(視覚を遮った条件と、見せた条件の対比)
    • 名指しされた指の指し示し
    • 検者が示した指と同じ指を自分の手で示す模倣課題
    • 自分の手と他者の手の双方で施行する
  2. 影響要因の切り分け

    • 表在感覚・深部感覚(手指の感覚障害の有無)
    • 失語の有無(指の名称の理解と表出)
    • 左右失認の有無
    • 半側空間無視・身体失認の有無
  3. Gerstmann症候群の他の3徴の評価

    • 書字(失書)
    • 計算(失算)
    • 左右の同定(左右失認)

分類上の論点

手指失認を単一の障害とみなすか、複数の異なる欠損が同じ名で呼ばれているとみなすかについて、定説はない。指の名称の理解、指の空間的な配列の表象、触覚刺激の身体上への定位といった要素のいずれが障害されても、検査上は「手指失認」と記録されうるためである。

Gerstmann症候群の一徴としての位置づけについても議論がある。Rusconi は、Gerstmann症候群を頭頂葉内の離断として捉え直す解釈を提示しており、この見方では4徴は互いに独立した機能の障害が解剖学的な近接によって同時に現れたものとなる [1]。一方で、Gerstmann 本人が手指失認を中核とみなしていたように、単一の機能的基盤を想定する立場も残っている。詳細は Gerstmann症候群の項を参照されたい。

文献

  1. Rusconi E. Gerstmann syndrome: historic and current perspectives. Handb Clin Neurol
    2018;151:395-411.(総説。PMID 29519471 /
    DOI
  2. Tekgol Uzuner G, Ubur A, Erten M, Uzuner N. A Rare Clinical Antity; Pure Gerstmann Syndrome.
    J Stroke Cerebrovasc Dis 2020;29(10):105161.(症例報告1例。PMID 32912538 /
    DOI
  3. Cubelli R, Rusconi E. The making of a syndrome: Gerstmann's patients before Gerstmann
    syndrome. Cortex 2022;155:189-201.(症例報告。原著3症例の再検討。PMID 35998548 /
    DOI