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道順障害
説明
建物や風景は問題なく同定できるのに、自分が今どこにいるのか、2つの地点がどのような位置関係にあるのかが分からなくなる症候である。目印は見えており「これは駅だ」と正しく答えられるのに、そこから自宅がどちらの方向にあるかが出てこないため道に迷う。一度に見渡せない広さの空間における方向の記憶が失われている状態と理解されている。
高橋伸佳による地誌的障害の2分類のうちの一方で、もう一方の街並失認とは責任病巣が異なる [1]。街並失認では建物の同定そのものが障害されるのに対し、道順障害では建物の同定は保たれる。この対比は病歴聴取だけでは区別が難しく、写真を用いた同定課題を実際に行うことで初めて分かれる。
責任病巣は右脳梁膨大後部皮質(Brodmann 29野・30野)、後部帯状回(23野・31野)、および楔前部である。右後部帯状回の膨大部を含む脳梗塞により、新しい環境でだけ道に迷い、慣れた自宅では迷わず、既知・未知いずれの建物や風景も写真で正しく同定できた82歳女性の症例が報告されている。新しい経路を覚えられないのは広範囲にわたる方向の記憶が失われたためと考察され、右後部帯状回が新しい経路の記憶に関与すると結論された(症例報告1例)[2]。とりわけ脳梁膨大後部皮質は新規情報の符号化に重要とされている。
病巣
- 右脳梁膨大後部皮質(Brodmann 29野・30野)
- 右後部帯状回(23野・31野)[2]
- 右楔前部
検査
建物・風景の同定が保たれていることの確認
- 熟知した建物・風景の写真による同定
- 有名な建造物の写真による同定
- (ここが障害されていれば街並失認を考える)
空間内での定位
- 熟知した経路の言語による説明
- 自宅周辺・病棟の見取り図の描画
- ある地点から別の地点がどちらの方向にあるかの判断
- 地図上での自己位置の指示
新規経路の学習
- 病棟内など新しい環境での経路学習の可否
- 既知環境と新規環境での迷いやすさの差の確認
併存機能の評価
- 視覚性記憶
- 半側空間無視
- 左右失認
分類上の論点
「街並失認/道順障害」という日本語圏の2分類と国際的な分類は一対一に対応しない。Aguirre と D'Esposito は地誌的障害を landmark agnosia、heading disorientation、egocentric disorientation、anterograde disorientation の4型に分類しており、道順障害はこのうち heading disorientation に対応する [3]。残る egocentric disorientation(自己中心座標での空間関係の障害)と anterograde disorientation(発症後の新規環境についてのみ生じる地誌的障害)には定訳がなく、和文の記載では扱いが安定していない。文献を横断して読むときには、同じ症例が異なる用語で記述されている可能性を念頭に置く必要がある。
また、後天性の道順障害とは別に、脳損傷や他の神経疾患がないまま生涯にわたって道に迷い続ける発達性地誌的失見当(Developmental Topographical Disorientation, DTD)というカテゴリーがある。安静時機能的 MRI を用いた比較(DTD 19名・対照21名)では、DTD 群の機能的脳ネットワークで結合の数と強度、および効率がいずれも高いという結果が得られており、代償機構による修飾と解釈されている [4]。ただしこれは小規模な研究であり、機序は分かっていない。スクリーニング用の自己記入式尺度も提案されているが [5]、後天性の道順障害の評価に転用できるかは検討されていない。
文献
- Takahashi N. [Agnosia for streets and defective root finding]. Brain Nerve 2011;63(8):830-8.
(総説。PMID 21817174) - Katayama K, Takahashi N, Ogawara K, Hattori T. Pure topographical disorientation due to right
posterior cingulate lesion. Cortex 1999;35(2):279-82.(症例報告1例。PMID 10369100 /
DOI) - Aguirre GK, D'Esposito M. Topographical disorientation: a synthesis and taxonomy. Brain
1999;122(Pt 9):1613-28.(総説。PMID 10468502 /
DOI) - Faryadras M, Burles F, Iaria G, Davidsen J. Functional brain networks in Developmental
Topographical Disorientation. Cereb Cortex 2024;34(4).(原著。DTD 19名・対照21名。
PMID 38566506 / DOI) - Jaswal T, Burles F, Iaria G. The Rapid Sense of Direction (R-SOD) Scale: A Brief Self-Report
Tool to Identify Developmental Topographical Disorientation (DTD). Brain Sci
2025;15(6):622.(原著。n=3794。PMID 40563792 /
DOI)