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最終更新: 2026-07-20

街並失認

説明

見慣れているはずの建物や風景を見ても、それがどこであるか分からなくなる症候である。建物を建物として、風景を風景として形態的に知覚することはできる。分からないのは「その建物」「その場所」という個別の同定であり、この点で相貌失認(顔を顔として見えるが誰か分からない)と構造が並行している。よく知った土地で道に迷う原因になるが、迷う理由は方向感覚の喪失ではなく、目印となる建物が同定できないことにある。実際、患者は慣れた地域の道順そのものは覚えており、言葉で説明したり地図を描いたりできることがある [1]。

高橋伸佳は地誌的障害(見慣れた環境で道に迷う状態の総称)を、街並失認と道順障害の2つに分類することを提唱した [1]。街並失認は建物や風景の同定が障害される型、道順障害は建物は同定できるのに自分の位置や2地点の位置関係が分からなくなる型で、責任病巣も異なる。

街並失認の責任病巣は右海馬傍回後部、舌状回前半、および隣接する紡錘状回である。4例の MRI を検討した研究では、右海馬傍回後部が建物や風景に関する新しい情報を獲得するために必須であり、そこに舌状回前半と隣接紡錘状回を加えた領域が既知の建物・風景の同定に重要であると結論されている [2]。この領域は右前側頭葉に蓄えられていると考えられる建物の記憶と、目の前の視覚情報とを結びつける役割を担うと解釈されている [2]。

病巣

  • 右海馬傍回後部
  • 右舌状回前半
  • 隣接する右紡錘状回

検査

  1. 建物・風景の同定

    • 患者本人が熟知している建物・風景の写真による同定
    • 有名な建造物・風景の写真による同定
    • 建物を「建物として」知覚できているかの確認(形態的な弁別)
  2. 地誌的知識と経路の評価

    • 熟知した経路の言語による説明
    • 自宅周辺・病棟の見取り図の描画
    • 実際の経路歩行での観察
  3. 併存する視覚性失認の評価

    • 相貌失認の有無(未知顔の弁別と既知顔の同定)
    • 物体認知
    • 色覚(大脳性色覚障害の併存の有無)
  4. 標準化検査

    • 標準高次視知覚検査(VPTA)の相貌・風景に関する下位検査

分類上の論点

日本語圏で広く使われる「街並失認/道順障害」の2分類と、国際的に標準となっている分類とは対応していない。Aguirre と D'Esposito は地誌的障害を4つに分類した [3]。landmark agnosia(街並失認に対応)、heading disorientation(道順障害に対応)、egocentric disorientation、anterograde disorientation の4型で、それぞれ異なる神経解剖学的部位の損傷によるとされる [3]。後の2つには定着した日本語訳がなく、和文の記載では扱いが一定しない。したがって、和文と英文の文献を突き合わせる際には用語の対応に注意が必要である。

もう一つの論点は相貌失認との関係である。街並失認と相貌失認は併存することが多く、両者を単一の障害の現れとみる見方もあった [4]。しかし高橋らの検討では、相貌失認の責任病巣は舌状回・紡錘状回の後半にあり、街並失認の責任病巣とは近接するものの別個であると結論されている [2]。病変が拡大して両領域を含めば両者が同時に出現する、という説明である。近接した領域の障害である以上、臨床では両方を必ず評価する必要がある。

文献

  1. Takahashi N. [Agnosia for streets and defective root finding]. Brain Nerve 2011;63(8):830-8.
    (総説。PMID 21817174)
  2. Takahashi N, Kawamura M. Pure topographical disorientation--the anatomical basis of landmark
    agnosia. Cortex 2002;38(5):717-25.(症例報告4例。PMID 12507041 /
    DOI
  3. Aguirre GK, D'Esposito M. Topographical disorientation: a synthesis and taxonomy. Brain
    1999;122(Pt 9):1613-28.(総説。PMID 10468502 /
    DOI
  4. Suzuki K. [Symptoms and lesion localization in visual agnosia]. Rinsho Shinkeigaku
    2004;44(11):842-4.(総説。PMID 15651309)