このデータベースは現在開発段階です。内容は随時更新・修正されます。
精神性注視麻痺
説明
見ようと意図した対象へ随意的に視線を向けられなくなる症候である。眼球運動麻痺ではないため、眼球そのものは全方向へ動く。頭位変換眼反射のような反射性の眼球運動や、突然の刺激に対する反応は保たれているのに、「あそこを見てください」という指示に応じた随意的な視線移動が起こらない、あるいは大きく的を外して何度もやり直すという形で現れる。眼球運動失行、精神性注視麻痺、視覚性注意障害など複数の呼び名があり、文献ごとに用語が揺れている [1]。
視線が一つの対象に貼りついたまま離れない(固執)ことも、逆に目標に定まらず彷徨うことも起こる。結果として場面全体を走査できなくなるため、同時失認との臨床像の重なりが大きく、両者を独立に測ることは実際には容易ではない。
同時失認、視覚性運動失調とともに Balint症候群の3徴をなす [1]。ただし一側病変で3徴が非対称かつ不全な形で出ることが報告されている。左頭頂後頭領域を主とする病変により、精神性注視麻痺・視覚性運動失調・同時失認がいずれも右半空間で強く現れた症例があり、この症例では右視野で眼球運動が制限されることが症状の非対称性の背景と考察されている [2]。したがって「Balint症候群」という症候群名だけでは、どの徴候がどちらの半空間にどの程度出ているかを記録できない。徴候ごと・半空間ごとに記載する必要がある。
病巣
- 両側頭頂後頭接合部
- 上頭頂小葉
- 一側頭頂後頭領域の広汎な病変でも対側半空間優位の不全型として生じる [2]
検査
随意的注視の評価
- 指示に応じた視標への視線移動
- 二つの視標間での視線の切り替え
- 左右それぞれの半空間で施行する
反射性眼球運動との対比
- 頭位変換眼反射
- 突然出現した刺激への反応
- 追視(滑動性眼球運動)
探索行動の観察
- 場面画を提示したときの視線の動き
- 抹消課題における走査の順序と取りこぼし
併存徴候の評価
- 眼球運動麻痺・核上性麻痺の除外
- 同時失認、視覚性運動失調の有無
- 半側空間無視の有無
分類上の論点
精神性注視麻痺を独立した症候として扱うか、Balint症候群の他の2徴と共通の欠損の別の現れとみなすかについては議論がある。Pisella らは、Balint症候群の中核欠損は covert attention(視線を向けずに注意だけを向ける働き)の障害であり、周辺視における空間的な位置の不確定性の増大が知覚症状と運動症状の双方を生むとする統合モデルを提唱している [3]。この立場では、随意的注視の障害も対象の位置が定まらないことの帰結として説明される。
これに対し、3徴を機能系の異なる別個の症候として扱い、病巣と対応づける古典的な立場も残っている [1]。どちらが正しいとは現時点で断定できない。
文献
- Chechlacz M. Bilateral parietal dysfunctions and disconnections in simultanagnosia and Bálint
syndrome. Handb Clin Neurol 2018;151:249-267.(総説。PMID 29519461 /
DOI) - Sakurai Y, Fujimoto M, Hamada K, Sugimoto I. Asymmetric oculomotor apraxia, optic ataxia, and
simultanagnosia with right hemispatial neglect from a predominantly left-sided lesion of the
parieto-occipital area. Cogn Neuropsychiatry 2018;23(1):1-14.(症例報告1例。PMID 29199507 /
DOI) - Pisella L, Vialatte A, Khan AZ, Rossetti Y. Bálint syndrome. Handb Clin Neurol
2021;178:233-255.(総説。PMID 33832679 /
DOI)