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最終更新: 2026-07-20

純粋語聾

説明

聴力は保たれているのに、話しことばだけが聞き取れなくなる症候である。話者の声は「音」としては
届いており、環境音の認知も、読解も、発話も、書字も保たれているのに、聞いた語を理解することも
復唱することもできない。患者はしばしば「外国語のように聞こえる」「音は聞こえるが言葉にならない」
と訴える。

聴覚失認の階層のなかでは、皮質聾 → 広義の聴覚失認 → 純粋語聾/環境音失認/失音楽という
位置づけになる [1, 2]。純粋語聾は、この広義の聴覚失認のうち言語音の処理だけが選択的に損なわれた
下位型である。Wernicke失語と紛らわしいが、書かれた文章の理解が保たれ、発話が流暢で錯語も
乏しいことが鑑別点になる。

Miceli と Caccia の総説によれば、Dejerine と Sérieux の最初の解剖学的報告(1898年)から120年を
経てなお、確実な病巣記載を伴う症例は広義の聴覚失認と純粋語聾を合わせて累計80例に満たず、その
約70%が血管性病変である [1]。広義の聴覚失認では病巣が両側であることが非常に多いのに対し、純粋語聾
では一側性の症例がより多い
という違いが指摘されている [1]。一側例では解剖学的な離断が必ずしも
前提とはならず、機能的離断でも生じうると考えられている。

病巣

  • 両側上側頭回(ヘシュル回を含む聴放線周囲)
  • 言語優位半球(多くは左)の上側頭領域 — 一側性病変でもここが障害されると言語音処理が困難になる
    [1]
  • 左側頭葉皮質下白質(聴放線の離断)[2]
  • まれに下丘など脳幹聴覚路(松果体腫瘍による圧迫例の報告がある)[3]
  • 変性疾患(Alzheimer病の非典型発症)[4] やてんかん(高齢発症てんかん)[5] でも生じうる

検査

  1. 純音聴力検査

    • 聴覚閾値の測定 — 末梢性難聴の除外が前提になる
    • 聴性脳幹反応による脳幹聴覚路の評価
  2. 言語音の認知

    • 語音聴取・音韻弁別
    • 聴覚的理解と復唱
    • 読解との対比 — 読解が保たれることが診断の要
  3. 非言語音の認知

    • 環境音の同定
    • 旋律・リズムの弁別 — 言語音との乖離の有無を見る [6]
  4. 失語症検査

    • 発話の流暢性、錯語の有無、書字の評価
    • Wernicke失語・語聾を伴う失語との鑑別

分類上の論点

純粋語聾を独立した症候とみなすか、広義の聴覚失認の連続体の一端とみなすかは決着していない。
Miceli と Caccia は、報告例の多くで言語音・環境音・音楽の評価が網羅的でなく、症例ごとに用語の
使い方も異なるため、既存の症例記述だけでは階層の境界を確定できないと述べている [1]。

処理の非対称性がどの段階で生じるのか — 一次聴覚野の段階か、より高次の連合野の段階か — も
分かっていない。脳幹での聴覚処理が完全に左右対称であるかどうかも確認されていない。障害の
本質については、素早い時間的・スペクトル的変化を含む音の処理の困難が中核的な次元のひとつ
であるという見方が有力であるが、これですべての症例を説明できるかは確定していない [1]。

文献

  1. Miceli G, Caccia A. Cortical disorders of speech processing: Pure word deafness and auditory
    agnosia. Handb Clin Neurol 2022;187:69-87.(総説。PMID 35964993 /
    DOI
  2. Tokida H, Kanaya Y, Shimoe Y, Imagawa M, Fukunaga S, Kuriyama M. [Auditory agnosia associated
    with bilateral putaminal hemorrhage: A case report of clinical course of recovery].
    Rinsho Shinkeigaku 2017;57(8):441-445.(症例報告。PMID 28740065 /
    DOI
  3. Joswig H, Schönenberger U, Brügge D, Richter H, Surbeck W. Reversible pure word deafness due
    to inferior colliculi compression by a pineal germinoma in a young adult.
    Clin Neurol Neurosurg 2015;139:62-5.(症例報告。PMID 26372938 /
    DOI
  4. Salemme S, Benuzzi F, Fiondella L, Carbone C, Vinceti G, Magarelli S, et al. Pure word
    deafness: a case report of an atypical manifestation of Alzheimer's disease. Neurol Sci
    2022;43(9):5275-5279.(症例報告。PMID 35710959 /
    DOI
  5. Takehara T, Hayashi K, Sato M, Yamashita M, Maeda H, Suzuki A, et al. Case Report:
    Epilepsy-related pure word deafness in the elderly: an underreported presentation?
    Front Rehabil Sci 2026;7:1776545.(症例報告。PMID 41940041 /
    DOI
  6. Vignolo LA. Music agnosia and auditory agnosia. Dissociations in stroke patients.
    Ann N Y Acad Sci 2003;999:50-7.(総説・症例研究。PMID 14681117 /
    DOI