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同時失認
説明
個々の対象は認識できるのに、複数の対象を同時に把握できなくなる症候である。一つの物品を見せれば正しく答えられるのに、複数の物品が並んだ場面や絵画を見せると、目についた一つだけを述べて全体の意味に到達できない。対象どうしの空間的な位置関係を掴めないことも特徴で、文章を読む際に行を追えない、食卓の上から目的の食器を見つけられないといった形で日常生活に現れる。
視覚性運動失調(視覚的に誘導した手の到達運動の障害)、精神性注視麻痺(意図した対象へ随意的に視線を向けられない状態)とともに Balint症候群の3徴をなし、古典的には両側頭頂後頭領域の病変で生じるとされてきた [1]。しかし一側病変でも3徴が非対称に、かつ不全な形で出現することが報告されている。左頭頂後頭領域を主とする病変で、精神性注視麻痺・視覚性運動失調・同時失認がいずれも右半空間で強く現れ、右半側空間無視を伴った症例が記載されており、この症例では半側空間無視の併存が反対側半空間の同時失認を増悪させていた(症例報告1例)[2]。つまり「Balint症候群あり」と記録するだけでは、どの徴候がどちらの半空間でどの程度出ているかという臨床的に意味のある情報が失われる。3徴は個別に、半空間ごとに記載する必要がある。
病巣
- 両側頭頂後頭接合部(古典的な Balint症候群)[1]
- 上頭頂小葉
- 一側(左または右)頭頂後頭領域の広汎な病変でも非対称な不全型として生じる [2]
- 変性疾患では後部皮質萎縮症(posterior cortical atrophy)の経過中に出現する
検査
複数対象の同時把握
- 場面画の説明(一つの要素のみを述べて全体に至らないか)
- 重ね書き図形の同定
- 数個の物品を並べた際の計数
空間関係の把握
- 対象どうしの位置関係の言語化
- 文章音読における行の追跡
眼球運動と到達運動の同時評価
- 随意的な注視の切り替え(精神性注視麻痺の有無)
- 視覚誘導性の到達運動(視覚性運動失調の有無)
- 上記を左右の半空間それぞれで評価する
基礎機能の確認
- 視野(同名半盲の有無)
- 半側空間無視の評価
分類上の論点
Balint症候群の3徴が単一の欠損に還元できるのか、それぞれ独立した症候の偶発的な同居なのかについては見解が分かれている。
Pisella らは、Balint症候群の中核的な欠損は注意性のものであるとする統合的な見方を提唱している [3]。周辺視では対象の性質は知覚できても正確な位置が定まらず、covert attention(視線を向けずに注意だけを向ける働き)はこの空間解像度を高める役割を担っている。したがって covert attention が障害されると空間的な位置の不確定性が増し、その結果として知覚症状(同時失認・無視)と運動症状(視覚性運動失調)の両方が同一の原因から生じる、という説明である。この立場では、上頭頂小葉が covert attention を、右下頭頂皮質が視覚的リマッピングを担うという後部頭頂皮質のモデルが併せて提示されている [3]。
一方で、3徴を別個の機能系の障害として扱い、病巣と症候を個々に対応づける立場も続いている [1]。どちらの見方が正しいかは決着していない。臨床記録の実務としては、いずれの立場を採るにせよ徴候を個別に記載しておくことが安全である。
文献
- Chechlacz M. Bilateral parietal dysfunctions and disconnections in simultanagnosia and Bálint
syndrome. Handb Clin Neurol 2018;151:249-267.(総説。PMID 29519461 /
DOI) - Sakurai Y, Fujimoto M, Hamada K, Sugimoto I. Asymmetric oculomotor apraxia, optic ataxia, and
simultanagnosia with right hemispatial neglect from a predominantly left-sided lesion of the
parieto-occipital area. Cogn Neuropsychiatry 2018;23(1):1-14.(症例報告1例。PMID 29199507 /
DOI) - Pisella L, Vialatte A, Khan AZ, Rossetti Y. Bálint syndrome. Handb Clin Neurol
2021;178:233-255.(総説。PMID 33832679 /
DOI)