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最終更新: 2026-07-20

視覚性失認

説明

見えているのに、それが何か分からない症候である。
正確には、視力・コントラスト感度・視野のいずれにも対象の知覚を妨げる問題がなく、
かつ知能・注意・言語・記憶にも異常がないにもかかわらず、
視覚的に提示された対象を認知できない状態を指す [1]。

障害される情報処理段階による分類

  • 知覚型(統覚型) — 形がまったく分からない
  • 統合型 — 部分的な形を全体の形に関連づけられない
  • 連合型 — 形は完全に分かっているが、その意味と結びつけられない

分からなくなる対象の種類による分類

  • 物体失認 — 物品を見てもそれが何か分からない
  • 相貌失認 — 顔を見てもそれが誰か分からない
  • 街並失認 — 知っているはずの風景を見てもそれがどこか分からない

病巣

  • 知覚型(統覚型):両側後頭葉。一酸化炭素中毒などのびまん性障害によることが多い
  • 統合型・連合型:両側または左後頭側頭葉腹側部 [1]
  • 対象の種類による分類はそれぞれ別の病巣に対応する(各項を参照)

検査

  1. 標準高次視知覚検査(VPTA)

  2. 知覚水準の評価

    • 模写
    • 同一物どうしの照合
    • 図形の弁別
  3. 意味水準の評価

    • 視覚呈示による呼称
    • 触覚呈示・言語説明による呼称との比較(モダリティ間の乖離を見る)
    • 用途の説明、ジェスチャーによる表出

分類上の論点

この3分類は臨床記述の枠組みとしては標準であるが、認知神経心理学的には
「粗すぎる」という批判が定着している。

出発点は Lissauer(1890)の統覚型/連合型の2分類である [2]。しかし、連合型の判定基準
(模写ができる、同一物の照合ができる)を満たす症例の多くが、実際には
時間をかけて部分をばらばらに写し取っているだけで全体把握が正常とは言えないことが
明らかになり、これを連合型と区別して統合型と呼ぶようになった。
平山による日本語の総説は、この3分類を明示的に推奨している [3]。

一方、Riddoch & Humphreys は、統覚水準の内部でもさらに
「形態認知の障害」と「知覚統合の障害」を区別すべきだとし、
連合型も単一ではなく、貯蔵された知覚的知識(構造記述)の損傷・意味記憶へのアクセス障害・
意味記憶そのものの損傷
という異なる病態を含むと論じた [4]。
すなわち、2分類でも3分類でも足りず、さらなる下位分割が必要だという立場である。

どちらが正しいという決着はついていない。
3分類は臨床で症例を記述し伝達するための実用的な枠組みとして有用であるが、
「統合型だから病態が一つに定まる」とは考えないほうが安全である。

なお、視覚失認の症候群概念そのものにも歴史的な変遷があり、
初期には「精神盲 psychic blindness」と呼ばれていた [5]。

文献

  1. Martinaud O. Visual agnosia and focal brain injury. Rev Neurol (Paris) 2017;173(7-8):451-460.
    (総説。PMID 28843416 / DOI
  2. Bartolomeo P. Visual agnosia and imagery after Lissauer. Brain 2021;144(9):2557-2559.
    (総説。PMID 33856025 / DOI
  3. 平山和美「視覚性失認」日本視能訓練士協会誌 2021;50:21-.
    (総説。J-Stage
  4. Riddoch MJ, Humphreys GW. Visual agnosia. Neurol Clin 2003;21(2):501-20.
    (総説。PMID 12916489 / DOI
  5. Baumann C. Psychic blindness or visual agnosia: early descriptions of a nervous disorder.
    J Hist Neurosci 2011;20(1):58-64.(史的論考。PMID 21253940 /
    DOI