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他人の手徴候
説明
一方の上肢が、意図しないのに自律的で目的をもっているように見える動きをする症候である。
診断の主要な基準は2つあり、その手が自分のものでないという訴えと、
既知の不随意運動疾患では説明できない、複雑で自律的な不随意運動である [1]。
患者はしばしば「手が勝手に動く」「この手は自分の言うことを聞かない」と表現する。
古典的には前頭型・脳梁型・後方(感覚)型の3変種に分けられる。
- 前頭型 — 内側前頭葉(補足運動野・帯状回前部)の病変による。
対象への衝動的なリーチングと把握(強制把握、道具の強迫的使用)が前景に立つ。
多くは利き手側に現れる。 - 脳梁型 — 脳梁の損傷による。
intermanual conflict(拮抗運動) を特徴とし、
一方の手が行おうとしている動作を他方の手が妨げる。
これは半球間の離断によって生じる現象であり、
離断症候群のカテゴリにおける拮抗失行に対応する(拮抗失行の項も参照)。 - 後方(感覚)型 — 頭頂葉・後方領域の病変による。
浮遊やレビテーション、感覚障害を伴う運動制御の異常として現れる。
ただし、この3分類が上肢の異常運動行動の臨床的多様性を尽くしているわけではない。
Park らは、この分類が臨床的な幅を明らかにカバーしていないと指摘している [2]。
病巣
- 内側前頭葉(補足運動野、帯状回前部)— 前頭型。前大脳動脈領域の梗塞
- 脳梁(とくに体部・膝部)— 脳梁型
- 頭頂葉・後頭頂領域 — 後方(感覚)型
- 前頭型と脳梁型は前大脳動脈梗塞で同時に生じうる
なお、脳梁は血流供給が豊富なため脳梁単独の梗塞は稀である。
Gao らは脳梁梗塞による脳梁型(右手)の1例を報告し、
あわせて過去に報告された脳梁梗塞後の他人の手徴候31例を総説している [1]。
症候の解釈に影響する要因
半側無視の合併は、臨床像の見え方を変える。
Chan と Ross は、前大脳動脈梗塞により内側前頭葉と広範な脳梁の病変を来した3例を報告した [3]。
左半球病変の1例では、右手の衝動的なリーチングと把握、
およびそれに拮抗する左手の動き(intermanual conflict)が見られた。
一方、右半球病変の2例では左半身の hemihypokinesia があり、
これが左手のリーチングと把握の頻度・振幅を抑制した、あるいは出現そのものを抑えたと
考えられた。intermanual conflict と、右手に対する左手の非拮抗的で無関係な動きは残っている。
著者らは、intermanual conflict という用語がしばしば誤用され厳密に定義されていないこと、
右手のリーチング・把握との併存はきわめて稀であること、
脳梁離断の徴候としての意義が十分に検証されていないこと、
そして運動無視によって左手のリーチング・把握が抑制されやすいことから、
いわゆる前頭型では右手だけが病的行動の焦点であるかのように見えてしまう傾向が
生じうる、と論じている。
つまり、観察される左右差は病巣だけでなく無視の有無にも左右されるため、
分類にあたっては半側無視の評価が要る。
検査
上肢の異常運動行動の観察
- 強制把握、道具の強迫的使用
- intermanual conflict(一方の手が他方を妨げる)の有無
- 浮遊・レビテーション
所属感の確認
- その手が自分のものであるという感覚の有無
- 手の動きに対する説明の求め方(他者に帰属させるか)
半側無視・運動無視の評価
- 上肢の自発的使用の頻度と振幅の左右差
- 視空間性無視の検査
感覚・体性感覚の評価
- 深部感覚、位置覚(後方型で重要)
神経生理学的検査
- 経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)と皮質内抑制の評価。
Park らの2例では、単発 TMS による MEP 振幅の低下と、
二連発 TMS による皮質内抑制の欠如が認められ、体性感覚誘発電位に異常はなかった [2] - 少数例の報告であり、診断基準として確立したものではない
- 経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)と皮質内抑制の評価。
文献
- Gao X, Li B, Chu W, Sun X, Sun C. Alien hand syndrome following corpus callosum infarction:
A case report and review of the literature.
Exp Ther Med 2016;12(4):2129-2135.(症例報告+文献レビュー、既報31例。PMID 27698701 /
DOI) - Park YW, Kim CH, Kim MO, Jeong HJ, Jung HY.
Alien hand syndrome in stroke - case report & neurophysiologic study -.
Ann Rehabil Med 2012;36(4):556-60.(症例報告、前大脳動脈梗塞2例、TMS による検討。
PMID 22977783 / DOI) - Chan JL, Ross ED. Alien hand syndrome: influence of neglect on the clinical presentation
of frontal and callosal variants.
Cortex 1997;33(2):287-99.(症例報告、3例。PMID 9220259 /
DOI)