問い
「速いものが速く見える」ことと「時間の長さが分かる」ことは、同じ一つの能力なのか、別々の能力なのか。
この問いが出た文脈
運動視の障害で世界が「コマ送り」に見え、かつ「実際より速く見える」という患者の報告が紹介された。速く見えるのは時間の認知が壊れているからではないか、という解釈が出たところで、そもそも速度の認知と時間の認知は別物なのか、という問い返しが入った。速度とは「どれぐらいの時間で動いたか」なのだから、両者は同じものではないか、という趣旨である。
これに対して、速度には身体性があって速い・遅いは直接感じられるが、秒単位の時間感覚は文化依存で後天的に獲得されたものではないか、という反論が出た。時間のスケールによって性質が変わるという整理も示された。日単位・半日単位なら太陽や月の運行から直接読めるが、秒単位には対応する自然の指標がない、というものである。
前提となる考え方
「定義」と「実装」は別の水準の話である
この対立が噛み合わないのは、二つの水準が混ざっているからである。
| 水準 | 問い | 答え |
|---|---|---|
| 定義 | 速度という量は時間を含むか | 含む(v = d/t)。物理量の定義であり争点はない |
| 実装 | 脳は速度を距離÷時間で計算しているか | 経験的問題。概念の議論では決まらない |
定義の水準では問い返した側が正しい。争点は実装の水準にしかない。そして実装の水準では、速度が距離と持続の商として計算されている必要はない。視覚神経科学の標準的な描像では、速度は時空間フィルタ(空間と時間の両方に選択性を持つ神経の応答特性)の出力比から直接読み出される一次的な量として扱われる。
したがって「速度の知覚が持続の知覚を前提とする」は、定義からは導けても実装からは導けない。両者は矛盾しない。 ただしこの「速度は一次的な感覚量である」という前提そのものを正面から検証した文献は、本調査では同定できていない。視覚科学の教科書的な前提を要約したものであって、以下に挙げる文献に直接の裏づけはない。この点は弱いまま残る。
実証側で使う用語
- akinetopsia(運動視失認) — 静止した物体は見えるのに動きだけが見えなくなる症候。 Zeki が 1991 年に Brain の総説で概念を整理した時点では「良い症例は文献上一例のみ」であり、その一例が以下たびたび出る患者 LM である。責任病巣は V5/MT と呼ばれる後頭側頭移行部の運動処理領域で、両側性に壊れると症状が全般化・慢性化する
- Zeitraffer 現象 — 動く対象の速度の見え方が変わる症候。語自体は古く、Alexander らが 2005 年の論文題名で Critchley に遡らせている。後述するように、文献内で語義が安定していない
- クロノスタシス — 時計に目を移した瞬間、秒針が止まって見える錯覚。サッカード(視線を素早く跳ばす眼球運動)の直後に、最初に見た対象の持続が延びて感じられる現象を指す
- 内的時計モデル — 体内に一定間隔で信号を打つペースメーカがあり、蓄積器がその数を数え、溜まった数を時間の長さとして読む、という枠組み。Treisman のペースメーカ・累算器モデルを起点に、線条体ビート周波数モデルなど多くの派生がある(
q-003で詳しく扱う)
現時点での答え
概念の水準では決着しない。実証の水準では、証拠が一方向にしか存在しない。
- 「速度が時間の見え方を変える」方向の研究は複数ある。ただしその中身にも後述の反証がある
- 「時間の認知が壊れると速度の見え方が変わる」方向を直接示した研究は、本調査では一本も見つからなかった
- 会が期待した「片方だけが壊れる病態」も見つからなかった。akinetopsia の研究は運動視しか測っておらず、時間知覚を測った報告がない
つまり本項の中心的な検証は、まだ実行されていない。「決着していない」のではなく「まだ問われていない」に近い。なお、この問いの立て方自体を粗すぎるとする第三の描像もある(後述の「脱同期」)。
根拠
以下、article_type と n は PubMed が返した値による。n が抄録にないものは未確認と記す。
速い運動は長く感じられる
「速度 → 時間」の方向の効果は、複数の独立した研究で再現されている。
| 研究 | 雑誌・年 | article_type | n | 所見 |
|---|---|---|---|---|
| Kaneko & Murakami | J Vis 2009 | Journal Article | 未確認 | 時間周波数でも空間周波数でもなく速度が主観的持続を最もよく説明する。持続は log 速度に比例して延びる |
| Tomassini et al. | Front Integr Neurosci 2011 | Journal Article | 未確認 | 視覚だけでなく触覚でも速度が上がると持続が延びる。触覚のほうが効果が大きい |
| Yamamoto & Miura | J Vis 2012 | Journal Article | 未確認 | プラッド(二つの縞を重ねた刺激。一つの模様が斜めに動くようにも、二枚の縞が別方向に動くようにも見える)で、全体としての動きの速さでは持続が延びるが、成分の縞の速さでは延びない。V5/MT 相当の高次段階の関与を示唆 |
| Sasaki et al. | Perception 2013 | Comparative Study | 未確認 | 平均速度が同じでも減速する運動は加速する運動より長く感じられる。知覚速度の差では説明できない |
課題(マッチング・再生)を変えてもモダリティを変えても出ており、効果そのものは確からしい。ただし Mioni 2018(Front Psychol、実験1 n=45+22、実験2 n=289)は、実際に動いていなくても「速さを連想させる意味」を持つだけで持続推定が動くことを示しており、この効果は純粋に感覚的とは限らない。そして何より、これは「速度が時間の見え方を歪める」ことを示すのであって、「速度の知覚が時間の知覚に依存する」ことを示すのではない。 会の論点は後者であり、方向が逆である。
延ばしているのは速度ではなく事象の数かもしれない
上の一群には正面からの反証がある。本項でもっとも重い所見である。
Linares & Gorea 2015(Sci Rep、Journal Article、n 未確認)は、回転する物体の速度と半径を独立に操作した。同じ速度でも半径が違えば一回転にかかる時間が変わるので、速度と「目立つ事象が起きる頻度」を切り離せる。結果、主観的持続を延ばしたのは速度ではなく回転の時間周波数、すなわち事象の頻度のほうだった。知覚速度も別に測ったうえでの結論である。
これは Kaneko & Murakami 2009 と正面から食い違う。両者とも「速度か時間周波数か」を切り分けることを目的に設計されており、反対の答えを出している。本調査ではどちらが正しいかを決められない。もし Linares & Gorea が正しければ、「速度が時間を歪める」のではなく「事象の数が時間を歪める」ことになり、上の表の一群はまるごと別の説明を得て、速度と時間の連関は間接的なものに落ちる。
なお Wiener et al. 2026(PLoS Comput Biol、Journal Article、3 群各 n=20)は、画像の記憶されやすさと、リカレント CNN で定義した処理「速度」がそれぞれ独立に主観的持続を延ばし、極端に速い場合は逆に時間が圧縮されるという逆U字モデルを提示している。ここでの「速度」は物理的な運動速度ではなく情報処理の速度であり、同じ語が別のものを指している。
速度は「距離÷時間」以外の手がかりからも読める
会の「速度には身体性がある」という直観に対応する実証が一つある。 Dallmann, Ernst & Moscatelli 2015(J Neurophysiol、Journal Article、n 未確認)は、触覚での速度弁別が、皮膚がすべるときに生じる振動に依存していることを示した。振動性のマスキングノイズを加えると速度弁別の精度が落ち、その効果は個別の突起を持たない滑らかな面で特に強かった。移動距離と経過時間を計算しなくても、振動という別の物理量から速度が読める、ということである。ただし触覚の話であり、視覚の速度知覚にそのまま外挿はできない。
共通基盤を主張する側 — ATOM
Walsh 2003(Trends Cogn Sci、Journal Article)は、時間・空間・量が頭頂皮質の共通の大きさ表現系を共有するという枠組みを提案した(A Theory Of Magnitude, ATOM)。速度はここでは時間と空間の複合量として位置づけられる。会の「同一とする側」を理論的に支える立場である。これに整合する所見として、Alexander, Cowey & Walsh 2005(Cogn Neuropsychol、 Journal Article、n 未確認)は、右後頭頂皮質への TMS(頭皮上から磁気刺激で局所の皮質活動を一時的に妨害する手法)が時間判断の反応時間だけを遅らせ、音高判断には影響しなかったと報告している。左頭頂・vertex(頭頂中央)への刺激では変化しなかった。ただし ATOM は仮説であって確立した事実ではない。提案論文は Journal Article として索引されているが、実質は理論提案であり一次データを報告していない。
別物とする側 — 内的時計モデルの構成
区間タイミングの計算モデルを横断的に整理した総説(Balcı & Simen 2024、Adv Exp Med Biol、 Journal Article / Review)は、ペースメーカ・累算器モデル、スカラー期待理論、線条体ビート周波数モデル(Matell & Meck 2004)、drift-diffusion 系、time cell モデルなどを列挙し、「閾値可変型 vs 時計可変型」「専用時計/ランプ型 vs 創発的な集団符号型」という二軸で整理している。
本項にとっての要点は、これらのモデルの一次変数に「運動する対象の速度」が含まれないことである。モデルが扱うのは内的なペースメーカの発火率であって外界の速度ではない。外界の速度は覚醒・注意を経由してペースメーカ速度に影響する外生変数として扱われる(感情による時間歪曲を扱った Lake, LaBar & Meck 2016 も同じ構造をとる)。つまり内的時計モデルは「別のもの」側に立つ。
ただしこれはモデルの構成上そうなっているだけであって、証拠ではない。 モデルの選択が答えを決めてしまっている。しかも Lake et al. 2016 は、現行のペースメーカ・累算器モデルが覚醒と注意について現在の知見と整合しないと明言しており、このモデル族自体が争われている。
運動視が壊れたとき時間はどうなるか — 本項最大の空白
会が期待したのは、片方だけが選択的に壊れる病態である。akinetopsia がその候補になる。
総説・系統的レビューは四本ある。Zeki 1991(Brain、Review)が概念を立てた歴史的総説、 Van Swol et al. 2023(J Neuroophthalmol、Systematic Review)が報告された全症例のカタログ、 Mowafi et al. 2025(Orphanet J Rare Dis、Review)が病因の総説、そして最新の Browne, Krabbendam & Blom 2025(Front Neurol、Systematic Review、臨床例 25・皮質刺激による実験例 27)である。Browne et al. 2025 は、両側 V5/MT 病変が全般性 akinetopsia と慢性化に対応するが、重症度は残存する運動視ネットワーク全体と、また動く対象の速度にも依存すると整理している(dynamic parallelism 説)。akinetopsia は速度に依存する障害だということである。
これを単一例で定量したのが Heutink et al. 2018(Cortex、Case Reports、n=1)である。両側 V5 病変の患者 TD にランダムドットキネマトグラム(多数の点のうち一定割合だけを同じ方向に動かし、残りをランダムに動かす刺激)を提示し、点の速度を系統的に変えたところ、 9 deg/s を超える速度でのみ運動方向の知覚が障害された。 低速の運動視は保たれていた。さらに 24 deg/s では常に実際と反対方向を報告した。これは車輪が逆回転して見えるワゴンホイール錯視の連続版にあたり、著者らは無傷の脳領域が V5 と異なるサンプリングレートで動作している可能性を挙げている。この所見は会の「コマ送りに見える」という報告と直接つながる。サンプリングレートの不一致は、まさにコマ送り現象の説明である。
しかし n=1 であり、しかも時間知覚が測られていない。 持続の再生・産出・弁別の成績は報告されていない。古典例 LM についても同じで、Baker, Hess & Zihl 1991(J Neurosci、n=1)、 Rizzo, Nawrot & Zihl 1995(Brain、Case Reports、n=1)、Schenk et al. 2000 (Eur J Neurosci、Case Reports、LM + 対照3名)はいずれも運動視の心理物理であって、時間知覚の検査ではない。akinetopsia 患者の持続弁別・時間産出を定量した文献を、本調査では一本も同定できなかった。 存在しないのではなく、この検索範囲では見つからなかった。
「速く見える」の名前と、脱同期という第三の描像
会で報告された「実際より速く見える」に対応する用語は文献にある。Ovsiew 2013 (Neurocase、Case Reports、n=1)は Zeitraffer 現象を「動く物体の速度の知覚の変容」と定義し、 akinetopsia と特徴を共有するが区別されるものとして扱っている。
ただしこの語は文献内で一貫していない。 Kesserwani 2020(Cureus、Case Reports、n=1)は右頭頂後頭溝の梗塞例で自己身体と周囲が遅く動いて見える現象を Zeitraffer 現象と呼んでおり、 Blom, Nanuashvili & Waters 2021(Front Psychiatry、Systematic Review)は slow-motion 現象と quick-motion 現象を別のカテゴリーとして並べたうえで、キーワードに三語を並記している。同じ語が速く見える場合と遅く見える場合の両方に使われており、 検索語として使うと取りこぼしが起きうる。
その Blom et al. 2021 は、59 の文献から 168 名の時間歪曲の体験を集め、うち 84 例を詳細な個別症例として検討している。最多カテゴリーは slow-motion / quick-motion 現象であり、時間歪曲が単一モダリティに限られたのは 39% にとどまって、61% では視覚 (49%)・運動覚 (18%)・聴覚 (14%) の関与があった。 著者らは、時間のネットワークが広く分散しているため、個別のタイミング機構が非同期に動作してモダリティ内・モダリティ間の時間的ミスマッチ(脱同期)が生じうると論じている。
この「脱同期」は、本項の問いに対する第三の答え方である。 時間認知も速度認知も単一の系ではなく、複数の成分タイミング機構の束であって、そのどれが壊れるかで見え方が変わる、という描像になる。この見方では、会の二分法(同一か別か)はどちらも粗すぎることになる。 q-007 で「内言語」が二成分に分解されたのと同型の動きである。
ただし格付けは低い。 これは症例報告の系統的レビューであり、元データはすべて症例記述である。 168 という数字は被験者数ではなく文献中に記載された体験の集計であって、有病率や共起率として臨床に持ち込めない。なお聴覚の関与が 14% に認められることは、q-002 に記録された聴覚での体験(目覚ましのクラシックが朝は速いテンポに聞こえる)が視覚固有の現象ではないことを示唆する。
クロノスタシスは速度の話ではない
会で言及されたクロノスタシスは、本項の中心的論点には直結しない。 引き金は自分の眼球運動であって、外界の運動速度ではないからである。ただし機序は決着しておらず、少なくとも四説が競合している。
| 説 | 代表文献 | 主張 |
|---|---|---|
| 後ろ向き外挿(古典説) | Yarrow et al. 2001(Nature、n 未確認)/ Yarrow & Rothwell 2003(Curr Biol、Comparative Study) | サッカード標的の知覚を眼球運動の開始直前まで遡らせる。腕の運動の後の触覚にも同様の効果 |
| 皮質下遠心性トリガ | Yarrow et al. 2004(J Cogn Neurosci、Comparative Study) | 随意的〜反射的まで幅広いサッカード種で効果量がほぼ同じ。上丘由来の低次信号が引き金 |
| 対象特異的・注意由来 | Georg & Lappe 2007(Exp Brain Res、Journal Article) | 標的の位置に置かれた時計でのみ延長が起き、中間位置では起きない |
| 網膜像運動由来 | Knöll, Morrone & Bremmer 2013(Vision Res、Journal Article) | サッカードを実際に実行しなくても模擬サッカードで生じる。偽の網膜運動が主因 |
さらに Melcher, Kumar & Srinivasan 2020(Sci Rep、Journal Article)は、キー押しでは時間圧縮が、サッカードでは逆に伸長が生じることを示し、後方シフトだけでは説明できず時間の膨張を反映すると論じた。Chen et al. 2025(Psychol Res、Journal Article)は、サッカード後の第二の事象は逆に短く感じられることを報告している。
本項に効くのは四番目の説だけである。 Knöll et al. 2013 が正しければ原因は網膜像上の運動であり、「運動信号が時間知覚を歪める」経路の一例として本項につながる。会の宿題(q-002 に記載)に対する答えは「機序は複数説が競合中」である。
「秒単位の時間感覚は文化依存か」は検証されていない
会の「日単位なら太陽や月の運行から読めるが、秒単位には自然の指標がない」という整理は、言語人類学の記述と符合する。
da Silva Sinha 2019(Front Psychol、Journal Article)は、ブラジルの三つの先住民言語(Huni Kuĩ, Awetý, Kamaiurá)の現地調査で、環境指標・天体指標・社会規範に基づく「出来事基盤の時間区間」の語彙は豊富にある一方、計量的な暦・時計の単位は用いられていないと報告した。「過去」「未来」に対応する語彙化された概念もなく、概念的なタイムラインの証拠も得られなかったという。
会の直観をかなり正確に支持するが、限界が二つある。 第一に、単著の民族誌的現地調査(研究者が現地に滞在して言語と生活を記述する手法)であって、統制された心理物理実験ではない。第二に、これは語彙と時間計算の慣習の記述であって、秒単位の時間知覚を測定したものではない。
二つ目には先例がある。Frank, Everett, Fedorenko & Gibson 2008(Cognition、Journal Article)は Pirahã の数について、「数語がなくても正確な照合はできる。記憶を要する課題でのみ成績が落ちる」と報告した。語彙の不在が知覚の不在を意味しないという教訓は、時間にも当てはまる可能性が高い。時計を持たない文化の話者に秒単位の持続弁別を実施した研究は、本調査では見つからなかった。
哲学側でも三者が決着していない
PubMed は生物医学限定で哲学を含まないため、以下は SEP(Stanford Encyclopedia of Philosophy)による。 SEP の "Temporal Consciousness" は、「経験の継起」と「継起の経験」を区別することがこの領域の中心的な論点だと整理する。経験そのものが時間の中に並んでいることと、経験の中身として変化が捉えられていることは別だ、という区別である。三つのモデルが対立している。
| モデル | 主張 |
|---|---|
| 映画モデル(反実在論) | 運動・変化は直接知覚されない。瞬間的経験の急速な連続が動的に「見える」だけ |
| 保持モデル(実在論) | 瞬間的な意識的エピソードが直前の過去の表象を含む(Brentano, Husserl) |
| 延長モデル(実在論) | 意識的エピソード自体が時間的に延長しており、変化・継起を直接含む |
会の「同一とする側」は事実上、映画モデルに近い立場を取っている。 個々の位置を継起として捉え、そこから速度を推論する、という描像だからである。一方「別とする側」の「速度は直接感じられる」は延長モデルに近い。
そして哲学側でもこの三者は決着していない。 会での対立は参加者の理解不足に由来するものではなく、この領域の未決着をそのままなぞっている。
分かっていないこと
- akinetopsia 患者の時間知覚を定量した研究を同定できなかった。 本項の問いにもっとも直接答えるはずの研究が存在しない。これが最大の空白である
- 逆向きの解離が未確認。 時間知覚が選択的に障害された症例で速度知覚が保たれるかを検査した文献は見つからなかった
- 「速度が持続を延ばす」のか「事象頻度が持続を延ばす」のかが未決着。 本調査では Kaneko & Murakami 2009 と Linares & Gorea 2015 のどちらが何を測っていたかを解決できなかった
- クロノスタシスの機序が未決着。 少なくとも四説が競合している
- 主要文献の n が抄録に記載されておらず未確認のものが多い。 Kaneko & Murakami 2009、 Linares & Gorea 2015、Tomassini et al. 2011、Yamamoto & Miura 2012、Yarrow et al. 2001、 Alexander et al. 2005 がこれにあたる。全文を確認していないため、効果量の格付けは保留する
- 「速度は一次的な感覚量である」という実装水準の前提に、本項が参照した文献の直接の裏づけがない。 視覚科学の教科書的前提を要約したものにとどまる
- 「秒単位の時間感覚は文化依存か」は未検証。 示されているのは語彙と時間計算の慣習であって知覚ではない
- 日本語圏の文献は未調査。 本項は PubMed 収載文献と SEP のみに基づく。時間の形而上学、時間概念の文化人類学、時計技術史はいずれも PubMed に収載されず、SEP の "Temporal Consciousness" 以外の哲学ソースにも当たっていない
関連する問い
q-002(時間帯による主観的時間の変動)とはクロノスタシスと聴覚での体験で、 q-003(PD・小脳の内的クロック)とは内的時計モデルで接続する。なおパーキンソン病については、視覚錯覚の面接調査(Sasaki et al. 2021、Psychogeriatrics、Journal Article、n=40)が kinetopsia・akinetopsia・Zeitraffer / Zeitlupen 現象を患者の体験として列挙しており、運動視の異常と時間の異常が同一患者群で併存しうることを示している。
出典
文献情報は PubMed から取得し、全 PMID を get_article_metadata で実在確認した。 article_type は PubMed が返した値をそのまま記す。
速度と主観的持続(原著)
- Kaneko S, Murakami I. Perceived duration of visual motion increases with speed. J Vis. 2009;9(7):14. PMID 19761329. Journal Article. n 未確認. DOI
- Linares D, Gorea A. Temporal frequency of events rather than speed dilates perceived duration of moving objects. Sci Rep. 2015;5:8825. PMID 25744877. Journal Article. n 未確認. 反証側. DOI
- Tomassini A, Gori M, Burr D, Sandini G, Morrone MC. Perceived duration of visual and tactile stimuli depends on perceived speed. Front Integr Neurosci. 2011;5:51. PMID 21941471. Journal Article. n 未確認. DOI
- Yamamoto K, Miura K. Perceived duration of plaid motion increases with pattern speed rather than component speed. J Vis. 2012;12(4):1. PMID 22469816. Journal Article. n 未確認. DOI
- Sasaki K, Yamamoto K, Miura K. The difference in speed sequence influences perceived duration. Perception. 2013;42(2):198-207. PMID 23700958. Comparative Study / Journal Article. n 未確認. DOI
- Wiener M, Mondok C, Ma A, Desai C, Joyner A, Macedo G. The speed limit of visual perception: Bidirectional influence of image memorability and processing speed on perceived duration and recognition. PLoS Comput Biol. 2026;22(5):e1013448. PMID 42149924. Journal Article. 3 群各 n=20. DOI
- Mioni G, Stablum F, Grondin S, Altoè G, Zakay D. Effect of the symbolic meaning of speed on the perceived duration of children and adults. Front Psychol. 2018;9:521. PMID 29755382. Journal Article. 実験1 n=45+22、実験2 n=289. DOI
理論枠組み
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- Alexander I, Cowey A, Walsh V. The right parietal cortex and time perception: back to Critchley and the Zeitraffer phenomenon. Cogn Neuropsychol. 2005;22(3):306-15. PMID 21038252. Journal Article. n 未確認. DOI
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- Matell MS, Meck WH. Cortico-striatal circuits and interval timing: coincidence detection of oscillatory processes. Brain Res Cogn Brain Res. 2004;21(2):139-70. PMID 15464348. Journal Article / Review. DOI
- Lake JI, LaBar KS, Meck WH. Emotional modulation of interval timing and time perception. Neurosci Biobehav Rev. 2016;64:403-20. PMID 26972824. Journal Article / Review. DOI
運動視障害(akinetopsia)— 総説・系統的レビュー
- Zeki S. Cerebral akinetopsia (visual motion blindness). A review. Brain. 1991;114(Pt 2):811-24. PMID 2043951. Journal Article / Review. DOI
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運動視障害 — 症例(n はいずれも 1。一般化に使えない)
- Heutink J, de Haan G, Marsman JB, van Dijk M, Cordes C. The effect of target speed on perception of visual motion direction in a patient with akinetopsia. Cortex. 2019;119:511-518. PMID 30661737. Case Reports / Journal Article. n=1. DOI
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- Beckers G, Hömberg V. Cerebral visual motion blindness: transitory akinetopsia induced by transcranial magnetic stimulation of human area V5. Proc Biol Sci. 1992;249(1325):173-8. PMID 1360678. Journal Article. n 未確認. 健常者で一過性に akinetopsia を作れることを示した実験. DOI
- Maeda K. Akinetopsia on Driving. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019;28(7):e102-e103. PMID 31036340. Case Reports / Journal Article. n=1. 右側頭頭頂梗塞で cinematographic vision. DOI
速度知覚の変容(Zeitraffer 現象)
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- Kesserwani H. The Zeitraffer phenomenon: a strategic ischemic infarct of the banks of the parieto-occipital sulcus. Cureus. 2020;12(7):e9443. PMID 32864267. Case Reports / Journal Article. n=1. DOI
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- Sasaki C, Yokoi K, Takahashi H, Hatakeyama T, Obara K, Wada C, Hirayama K. Visual illusions in Parkinson's disease: an interview survey of symptomatology. Psychogeriatrics. 2022;22(1):38-48. PMID 34617361. Journal Article. n=40. 面接調査(自己報告). DOI
クロノスタシス
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速度の身体性・文化依存性
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哲学(PubMed 射程外。SEP による)
- Temporal Consciousness. Stanford Encyclopedia of Philosophy. 初出 2010-08-06、実質改訂 2023-03-17. https://plato.stanford.edu/entries/consciousness-temporal/ (旧項目 The Experience and Perception of Time は retired となり本項目に統合された。旧項目の内容は本調査では確認していない)